岡山大学,理化学研究所,神戸大学は,クライオ電子顕微鏡を用いて,始原的なシアノバクテリアであるグレオバクターのPSI三量体の立体構造解析に成功した(ニュースリリース)。
酸素発生型光合成は,太陽の光エネルギーを利用して水と二酸化炭素から炭水化物と酸素を合成する反応。シアノバクテリア,藻類,陸上植物が酸素発生型光合成を行なうことにより,酸素呼吸をする生物は地球上で生活できている。
分子系統解析から,グレオバクターはシアノバクテリアの中で最も始原的な生物として位置づけられている。グレオバクターが発見された際,チラコイド膜を持たないシアノバクテリアとして報告されたため,グレオバクターは酸素発生型光合成生物の中で唯一の例外として,チラコイド膜ではなく細胞膜上で光合成を営んでいる。
したがって,研究グループはグレオバクターには酸素発生型光合成を獲得した進化の初期段階の形質が残されていると考え,光合成反応の根幹を担うPSIの分子構造の解析に着目した。
研究では始原的なシアノバクテリアであるグレオバクターからPSI三量体を単離し,クライオ電子顕微鏡を用いた単粒子構造解析により,2.04Åの分解能でPSIの立体構造を解明した。これまでに報告されているPSIの立体構造の中で最も分解能が高く,高精度に解析できたとする。
他の光合成生物のPSI構造と比較した結果,グレオバクターPSIの3種のサブユニット(PsaA,PsaB,PsaF)それぞれに,他の光合成生物には全く存在しないグレオバクター固有のループ構造を見出した。
一方で,他の光合成生物には存在し,光環境応答に関与していると考えられるクロロフィルが,グレオバクターでのみ欠落していることを明らかにした。これらのクロロフィルが,進化の後の段階で強い光環境に対処するために出現してきたことが考えられるという。
生物の祖先が獲得した光合成反応が,どのように進化してきたのかは興味深い問いの一つ。グレオバクターは始原的シアノバクテリアであることから,今回研究グループが得た知見は酸素発生型光合成系の進化の初期段階の特徴を示すものと考えられるという。この研究成果は,光合成の進化を紐解くうえで重要な契機にもなる。
研究グループは,立体構造解析によって生物の多様性を明らかにしたこの研究の知見を人工光合成研究に取り入れることで,高効率光エネルギー伝達システムの構築の進展が期待できるとしている。