東工大,温度で断熱と放熱を自動制御する材料開発

東京工業大学の研究グループは,結晶構造の次元性が温度変化によって可逆的に変化し,低温で断熱して高温で放熱する熱伝導制御材料を開発した(ニュースリリース)。

近年,深刻化するエネルギー問題を解決する手段の1つとして,熱を高度に制御し,廃熱を削減・有効活用することが期待されている。物質内を流れる熱量は,物質の両端に発生する温度勾配と熱伝導率(熱の流れやすさ)に比例する。そのため,熱伝導率が低い材料は熱を流さない断熱材に,また,熱伝導率の高い材料は熱を流す放熱材として用いられている。

一方,そのように一定の熱伝導率を持つのではなく,1つの材料で熱伝導率を変化させられれば,流れる熱量を制御することができ,断熱・放熱の切り替えといった,今までにない高度な熱制御を実現できる可能性がある。

例えば,低温から高温にかけて熱伝導率が急激に増加する材料があれば,低温側では断熱し,高温側では逆に放熱する機能を持たせることができる。このような熱伝導制御材料を温度管理が重要な自動車の触媒やバッテリ等に応用すれば,デバイスの温度が自発的に調整され,効率のよい熱利用が期待できる。

しかし,これまで熱伝導率が大きく変化する材料の例は極めて少なく,熱伝導制御材料の開発は難易度の高い課題とされていた。

研究では,2次元(2D)構造を有するセレン化スズ(SnSe)と3次元(3D)構造を有するセレン化鉛(PbSe)の固溶体を作製し,温度を変えることによって2D構造から3D構造へ可逆的に転移させ,熱伝導率を3倍変化させることに成功した。

半導体(2D構造)から金属(3D構造)へ変化することで電気伝導度が6桁増加し,電子の熱伝導率への寄与が大きくなる一方で,2D構造では層構造が格子振動による熱の伝搬を阻害するため,結果として熱伝導率の変化が大きくなるというメカニズムも解明した。

実用化に向けては,相転移温度を向上させること,熱伝導率の昇温曲線と降温曲線のずれ(ヒステリシス)を小さくすることなど,解決すべき課題はあるが,さまざまな材料系や結晶構造系の固溶体に展開することでさらなる性能向上が期待できるとする。

研究グループは,今回の得られた,結晶構造を人為的に制御して熱伝導率を変化させるという全く新しいアプローチは今後,結晶構造や化学結合が異なるさまざまな無機結晶系においても,高度な熱制御が可能な材料開発につながるとしている。

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