東京大学と早稲田大学ら国際研究グループは,これまでに確認されていた最遠の天体よりもさらに遠く古いと考えられる特徴を持つ天体「HD1」を発見した(ニュースリリース)。
初期宇宙の銀河を理解するために,より遠方の銀河が探されている。これまでハッブル宇宙望遠鏡が発見した134億光年かなたのGN-z11がもっとも遠方の銀河だったが,それより遠い天体は候補すら見つかっていなかった。
これは135億光年かなたの銀河からの光の波長は宇宙の膨張のために1.7μmよりも伸びてしまい,ハッブル宇宙望遠鏡のカバーする波長では観測が難しかったため。
そこで研究グループは,ハッブル宇宙望遠鏡よりも長い波長をカバーしている地上望遠鏡の観測データを用いて,GN-z11よりも遠方の宇宙に存在する銀河を探査した。これまで地上望遠鏡はハッブル宇宙望遠鏡に比べて感度が悪く,普通は暗いと考えられている遠方銀河の探査には不向きだと思われており,このような試みはこれまで行なわれていなかった。
研究グループは,すばる望遠鏡,VISTA望遠鏡,UK赤外線望遠鏡,スピッツァー宇宙望遠鏡の合計1200時間以上の観測によって得られた70万個以上の天体データから,135億光年かなたの最遠方銀河の候補天体,HD1を発見した。
HD1の色は赤く,135億年前の銀河の予想される特徴と驚くほどよく一致した。銀河のスペクトルモデルを使った詳細な解析を経て,HD1は135億年前の銀河だと解釈したが,確証を得るためには,正確な距離を測ることのできる分光観測が必要だった。
そこで研究グループは酸素輝線を検出するために,ALMA望遠鏡を用いて分光観測を行ない,酸素輝線が予想される周波数に弱いシグナルを見つけた。シグナルの有意度は99.99%で,もしこのシグナルが本物なら,HD1は135億光年かなたに存在する証拠になるが,99.9999%の有意度がないと確証は持てないという。
一方でシグナルが弱いことは酸素が少ないこと,つまりHD1はできたての初代銀河のような性質を持つことを示しているのかもしれないとする。HD1は非常に明るく,これはHD1のような明るい天体がビッグバン後わずか3億年の宇宙に既に存在していたことを示唆する。
HD1の存在は,これまでの銀河形成の理論モデルでは予言されていなかった。HD1に関する観測的な情報は限られており,非常に活発な星形成をしている銀河とも,活動的なブラックホールだという説もあるという。
HD1は去年に打ち上げられたジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の第1期観測のターゲットになっている。そこで分光器の1つ,NIRSpecによる分光観測により正確な距離が確認されれば,最遠方の銀河になるとしている