名古屋大学の研究グループは,フラーレンの一種であるサッカーボール分子C60を電極基板の上に思い通りに整列させることに成功した(ニュースリリース)。
化学反応などにより,サッカーボール分子C60一つ一つに情報を持たせることができれば,C60分子を素子とした,全く新しい単分子メモリーや分子デバイスを創り出すことができる。そのためには,それぞれのC60分子にどのような情報を持たせたかが分かるように,電極基板の上で番地を付けられるようにC60分子を整列させる必要があり,いくつかの解決するべき課題がある。
1つ目は,電極基板の上でC60分子をナノメートルのスケールで思い通りに整列させること,2つ目は,高い温度下や空気中でも,C60分子が動き回らずに整列した構造を保つこと,3つ目は,電極基板とC60分子の間で電子のやりとりができること。
ナノテクノロジーによって規則正しく並ぶように分子を設計して作ると,自己集合により分子が自然に集まり,目的の組織構造に分子集合体が組み上がる。研究グループは独自に開発した大環状分子を電極基板上で自己集合させることで分子シートを形成し,規則正しく並んだ「分子の落とし穴」を形成した。
また,あらかじめ大環状分子の分子設計に組み込んでおいた分子間相互作用(CH-π相互作用)により,その落とし穴一つ一つにC60分子を補足することに成功し,上記の課題を解決した。
C60分子が大環状分子の配列の上できれいに4nmずつの間隔で整列している様子は,走査型トンネル顕微鏡を用いて観察できた。規則正しく分子を整列させることは,分子に番地を付けられることになり,個々のC60分子を分子素子として用いた分子デバイスを作る上で重要な要素となる。
一方,C60分子は,大環状分子と化学結合により結びついていないので,溶媒や熱によりC60分子が溶け出したり,動き回る可能性がある。よって個々の分子に情報を持たせるためには,このようなC60分子の拡散を防ぐ必要がある。
研究で開発した大環状分子による落とし穴は,極めて安定にC60分子を補足しているため,200℃に加熱しても整列構造が維持されたという。さらに,超高真空下でも,空気中でも安定に扱うことができる。
また,走査型トンネル顕微鏡出の観察が可能なことは,下地の電極基板とC60分子の間で電子のやりとりをすることができることを表しており,一分子ごとの選択的な反応へ結びつけることができる。
これらの特徴から研究グループはこの成果が,単分子メモリーや分子デバイス,太陽電池,センサー,ナノ触媒などの多様な応用研究に期待できるとしている。