千葉大学らの国際共同研究グループは,重力レンズを用いることで,129億光年離れた単独の星からの微弱な光を捉えることに成功した(ニュースリリース)。
遠方宇宙の研究は,星の集合体である銀河の観測によって行なわれてきた。銀河を構成する個々の星が観測できれば,宇宙の歴史の中で星形成がどのように変化していったか,あるいは宇宙の初期にできた星の典型的な質量はどの程度かなど,宇宙の進化を理解するうえで貴重な情報が得られる。
このような遠方銀河を構成する単独の星の観測を可能にする方法として,自然の集光現象である重力レンズを利用する方法がある。2018年にこの手法により90億光年離れた単独の星の観測が報告された。ただし宇宙年齢に対応する138億光年に比べると十分遠方とは言えず,より遠くにある宇宙誕生から間もない星からの光の観測が望まれていた。
今回研究グループは,ハッブル宇宙望遠鏡で撮影された銀河団WHL0137-08により重力レンズ効果を受け引き伸ばされた銀河団背後の遠方銀河を解析する中で,一つの星状の天体に着目。古英語で明けの明星を意味する「Earendel」と名付けられたこの天体は,詳細な解析により,重力レンズで増光された単独の星であると結論づけた。
更なる解析の結果,この星は少なくとも太陽の50倍の質量を持ち100万倍以上明るいと見積もられた。129億光年離れたこの星は重力レンズ効果による集光がなければ到底観測できななかった。しかし,星が重力レンズにより起こる現象のひとつである「焦線」と呼ばれる,いわば空間の構造のさざなみに近づいたことで数千倍かそれ以上の極端に大きな増光率が達成され,これまで観測された星の中でも最も地球から遠方に存在する,単独の星の観測につながった。
今回の観測では,Earendelの詳細な性質はわからなかったため,研究グループは今後,2021年末に打ち上げられたばかりのジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡を用いた詳細観測を計画している。これにより星の温度がどのくらいか,重元素をどのくらい含んでいるかなどが判明すると期待されている。
またこのような宇宙初期の大質量星は,近年重力波観測により多数発見されつつあるブラックホールの祖先に対応する可能性もあるため,ブラックホールの起源に関する研究の進展も見込まれているという。さらに,ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による今後の銀河団の観測により,さらに遠方の星の発見,ひいては宇宙で最初に誕生した,いわゆる”初代星”発見への期待が寄せられるとしている。