富士フイルムは,色素を用いず,光の反射によって生じる発色現象である「構造色」を発現させ,意匠性の高い加飾印刷を可能にする「構造色インクジェット技術」を開発した(ニュースリリース)。
構造色とは,光の波長程度の微細構造によって生じる発色現象。物質自体に色素が無くても,その微細な構造によって光が干渉・分光することで発色して見える。自然界ではモルフォ蝶やタマムシ,貝殻などの例が挙げられ,その鮮やかな色彩が特長となっている。
今回同社が開発した「構造色インクジェット技術」は,分子制御技術を応用し,フィルム基材上に吐出したインク内に微細な構造を形成して発色させるもの。色味の異なる構造色を発現するインクを複数種用意し,その組み合わせやインクの濃度を調整しながら,構造色のパターンやグラデーションなどを自在に描画することで,高い意匠性を実現する。この技術の特長は以下の通り。
①色味の異なる構造色を発現する複数種のインクを組み合わせることで,光の波長によって生じる赤色から青色まで,フルカラーの構造色を表現できる。
②インクジェット印刷により構造色を自在に描画できるので,さまざまな色味のパターン表現や,色の濃度を変化させたグラデーション表現も可能。
③ 同じ印刷物でも,見る角度によって色合いが変化する。また,背景色によっても色合いが変化する。黒色の背景に構造色を加飾すると,透過光が吸収されて構造色の反射色が見えるが,白色の背景では透過光が吸収されず,その補色が見えるようになる。
この技術は,透明な樹脂やガラスの装飾にも適しており,今回採用された時計やアートピースのように,ファッション用品やインテリアの分野で活用できる。具体的には,シチズン時計の文字板やアートピースへの採用例がある。また,店頭の内外装やディスプレーへの加飾といった空間デザインにも応用できるという。
同社では多品種・少量生産や多様なデザインを可能にするインクジェット印刷の特長を生かし,幅広い分野や用途へ展開していくとしている。