東京農工大学,東京大学,京都大学は,通常電子デバイスにおいて邪魔者となるノイズを積極的に利用することで,従来は検出できなかった,分子の電子状態変化を捉えることに成功した(ニュースリリース)。
電子デバイスを利用した分子検出(センサ)において,ノイズは信号を劣化させる邪魔者であり,デバイスからノイズをいかに除去するかが,デバイス設計において重要だった。しかし近年,そのような電子デバイスの邪魔者であったはずのノイズを積極的に活用することで,ノイズを新しい情報源として扱う手法が提案されるなど,ノイズに対する価値観が変わりつつある。
研究グループは,分子と分子の相互作用が電子デバイスに対して引き起こすノイズ変化に注目し,従来のデバイスでは検出できず,紫外線光電子分光等の大型装置を利用しなければ検出できなかった,分子の電子状態変化の検出を目指した。
研究では,分子由来のノイズを取得するための電子デバイスとしてグラフェン電界効果トランジスタ(FET)を利用した。グラフェンは炭素原子が6角形ハチの巣状に平面的に並んだ材料であり,表面上の状態変化に敏感で,グラフェン自体から出るノイズが小さいことから,外部からのノイズの検出に有望。
今回,グラフェンFET上に有機分子の一種である金属錯体をのせ,酸化作用の高いラジカル性分子である二酸化窒素と非ラジカル性である二酸化硫黄にさらした。これにより,金属錯体の電子状態の変化を起こした後,グラフェンFETのノイズ特性評価を行なった。
その結果,ラジカル性の二酸化窒素を導入した場合のみに,特定の周波数をもつノイズ(周波数ノイズ)の変化が見られた。これは,ラジカル性分子の二酸化窒素が金属錯体に吸着することにより,金属錯体の電子状態(HOMO/LUMO準位)が大きく変化したことに由来すると考えられるという。
また,この実験結果からグラフェン上の金属錯体の電子状態変化を周波数ノイズにより確認することに成功した。これは,従来の直流(DC)測定では得られない分子の情報を取得しており,新たな分子評価技術の確立に繋がる研究成果だという。
この結果は,従来の電子デバイスのDC測定で取得可能であった分子の電荷や分子内静電ポテンシャルに対し,周波数ノイズの計測により,更に分子の電子状態を取得できることを示す。研究グループは,電子デバイスを利用した,大型分析装置に匹敵する分子の評価技術の開拓を目指すとしている。