東京理科大学と物質・材料研究機構(NIMS)は,アンチ・アンバイポーラトランジスタと呼ばれる特殊な有機トランジスタを用い,5つの2入力論理演算回路(AND,OR,NAND,NOR,XOR)を単一トランジスタで実証することに成功した(ニュースリリース)。
IoT社会において軽量性と高い情報処理能力を兼ね備えた高性能モバイル端末の開発が求められている。有機トランジスタを集積した有機集積回路は,その基幹技術として期待されているが,既存の微細加工技術が適応できないため,その集積度は極めて低いという課題があった。
そこで研究グループは,アンチ・アンバイポーラトランジスタと呼ばれる特殊な有機トランジスタに着目し,論理演算素子へ応用することを検討した。アンチ・アンバイポーラトランジスタは,p型半導体とn型半導体をチャネル中央部で一部分だけ重ね合わせたpn接合を形成することで,ある一定以上のゲート電圧を印加するとドレイン電流が減少する特異的な電気特性を示す。
この電流の増減現象は負性抵抗トランジスタで見られるが,トンネル伝導を利用するため,その動作温度は低温領域に限られてきた。一方,アンチ・アンバイポーラトランジスタでは室温において負性抵抗トランジスタと類似した電気特性を発現できるため,様々な論理回路へ応用することができる。
既存の集積回路では,p型トランジスタとn型トランジスタを一つの構成単位とし,それらを組み合わせることで論理回路を形成している。例えば,2入力論理回路として代表的なNAND回路は4個のトランジスタで構成されている。
また,XOR回路のような複雑な動作には12個のトランジスタを必要とする。これらの論理回路をより少ないトランジスタ数で実現できれば,素子の集積度を飛躍的に向上させることができる。
今回,研究グループは,複数の論理回路動作を単体素子に担わせる多機能化により有機集積回路の高性能化に取り組んだ。トップゲートおよびボトムゲート電圧を入力電圧とし,ドレイン電流を出力信号とすることで5つの2入力論理回路動作を単一トランジスタで,しかも室温で実証することに成功した。
研究グループは今後,入力電圧により種々の論理演算回路を電気的に切り替えられる特徴を活かし,再構成可能集積回路へ応用することを目指すとしている。