島根大学と高知工科大学は,低温(~300℃)で固相結晶化した水素化多結晶酸化インジウム(In2O3:H)薄膜の半導体への転移に成功し,酸化物半導体薄膜トランジスタ(TFT)にて世界最高の電界効果移動度139.2cm2V-1s-1を実証した(ニュースリリース)。
代表的な酸化物半導体である非晶質InGaZnO(IGZO)は,非晶質シリコンに比較して,高い電界効果移動度(~10cm2V-1s-1),極めて低いリーク電流,優れた大面積均一性等により,次世代ディスプレーや集積回路用途で活発な研究がなされ,実用化が始まりつつある。
しかしながら,多結晶シリコン(~100cm2V-1s-1)との比較や酸化物半導体の用途拡大のためには更なる高性能(高移動度)化が強く求められている。一方で,高移動度(~130cm2V-1s-1)な多結晶酸化インジウムは太陽電池用の窓層(透明導電膜)として研究が活発だが,金属的伝導を示し半導体としての用途は限定されていた。
今回研究グループは,水素濃度を制御した多結晶In2O3:H膜において,格子像が確認できる優れた結晶性を低温(~300℃)で実現しつつ,金属的伝導から半導体伝導にキャリア濃度を制御する手法を見いだし,高移動度酸化物半導体デバイス応用の可能性を拓いたとする。
また,In2O3:Hは透明かつ低温合成可能であることから,研究グループは,次世代ディスプレーや半導体メモリーの高性能・低電力化に加え,透明フレキシブルデバイスなどへの発展が期待できるとしている。