浜松ホトニクスは,テラヘルツ波の発生原理を解析し量子カスケードレーザー(Quantum Cascade Laser:QCL)の出力を高めるとともに,独自の光学設計技術により高効率の外部共振器を構成することで,0.42~2THzの範囲で任意の周波数のテラヘルツ波を発生するQCLモジュールを世界で初めて実現した(ニュースリリース)。
同社は2018年,独自の量子構造設計技術により,結合二重上位準位構造(AnticrossDAU)を採用した「テラヘルツ非線形QCL」を開発した。
このテラヘルツ非線形QCLにより,試料に含まれる成分に合わせ,テラヘルツ波の周波数を切り替えて照射し,吸収率を調べることで分析の精度を高めることができるが,現在,一つのモジュールで周波数の切り替えができる半導体レーザー光源は実用化されていない。そのため同社は,周波数可変のQCLモジュールの研究開発を進めてきた。
研究では,QCLのテラヘルツ波の発生原理を解析するとともに,結晶成長技術や半導体プロセス技術を応用し内部構造を最適化した。また,QCLの内部をテラヘルツ波が伝搬する原理を解析し,端面と高抵抗シリコンレンズの接合によりテラヘルツ波の発生効率を向上できることを見いだし,周波数1THz帯において出力を従来の非線形QCLと比べ,5倍以上となるサブミリワットレベルまで高めた。
今回,独自の光学設計技術によりこのQCLと適切な回折格子を組み合わせ高効率の外部共振器を構成し,回折格子を電気的に制御し傾きを変化させることで,室温動作のQCLでは最も周波数が低い,0.42THz~2THzの範囲で任意の周波数で狭帯域のテラヘルツ波を発生するQCLモジュールを世界で初めて実現した。
この成果により,試料に含まれる成分によって吸収されやすい周波数が異なる場合,一つのモジュールで周波数を切り替えて狭帯域のテラヘルツ波を照射し,それぞれの成分に よる吸収率を調べることで,薬剤や食品,半導体材料の品質評価,非破壊検査の正確性を向上できる。また,素材の識別が難しかったプラスチックなどの高分子材料の識別への応用も見込まれるという。
将来的には,QCLの放熱構造を工夫し,テラヘルツ波を安定して連続動作させることで,テラヘルツ波で宇宙空間を観測する電波天文学などへの応用や,データの伝送速度が毎秒数百ギガビットとなる超高速で大容量の短距離間無線通信への展開が期待される。同社では今後,独自の微小電気機械システム(MEMS)技術により,QCLモジュールを指先サイズ まで小型化していくとしている 。