京大ら,電荷が反対の粒子間に斥力が働く状況実現

京都大学,理化学研究所,米ブルックヘブン国立研究所は,シュウィンガー模型と呼ばれる1次元量子系において,電荷が反対の粒子間に斥力が働く状況を,数値シミュレーションにより実現することに成功した(ニュースリリース)。

電磁気力には電気的なものと磁気的なものがあるが,電気的な力は電荷を持った粒子の間に働く。電荷は粒子の種類に応じて値が割り当てられており,通常正負が同じ粒子の間には斥力,正負が反対の粒子の間には引力が働くことが知られている。しかし近年,このような”常識”が,空間が1次元の低次元系においては必ずしも成り立たない場合があり得ることが議論されていた。

具体的にはシュウィンガー模型と呼ばれる,基本的な粒子として光子と電荷を持つ粒子が結合した1次元量子系を考える。この模型において,互いに反対の電荷を持つ二つの重い粒子(プローブ電荷)の間に働く力を考えると,その定性的な振る舞いが模型のパラメータの値に依存して次の三つのパターンに分かれることが指摘されていた。

①引力が働くが,あまり強くなくお互いに遠くへ離れることができる。
②ひもでつながれているかのような強い引力が働き,お互い遠くへ離れることができない。
③斥力が働く。特に,勝手に伸びるようなひも(負の張力を持つ)でつながれているかのような力が働く。

①と②はさまざまな状況で起きる現象なのに対して,③は特殊な現象であり,ほとんど研究がされていなかった。また,③の現象が起こると予言されていた模型のパラメータ領域は,これまでの素粒子理論分野における標準的な数値計算の手法(マルコフ連鎖モンテカルロ法)では調べるのが非常に難しいとされていた。

具体的には符号問題と呼ばれる問題により,必要な計算量が莫大になり,数値シミュレーションが困難になる。そこで研究グループは,ゲート型量子計算機を使用する際に用いられるアルゴリズム(量子アルゴリズム)の一種で,断熱的状態準備法と呼ばれる手法を用いた。

これにより,プローブ電荷の間に斥力が働くと指摘されている状況を数値シミュレーションで直接調べることができるようになった。そして古典シミュレータを用いてプローブ電荷間の力を計算したところ,あるパラメータ領域においては実際に斥力が働くことが分かった。

研究グループは今回の成果により,同じく符号問題により通常の方法では数値シミュレーションが難しいと言われている重要な問題(初期宇宙の時間発展,有限密度領域における初期宇宙の相構造など)が,今回のようなアプローチで明らかになることが期待されるとともに,量子情報分野の発展を刺激していくとしている。

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