北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)の研究グループは,ナノ複合化細菌を使ってマウス体内のがん細胞の蛍光検出と光発熱治療を同時に可能にする技術の開発に成功した(ニュースリリース)。
近年,低酸素状態の腫瘍内部で選択的に集積・生育・増殖が可能な細菌を利用したがん標的治療に注目が集まっている。
なかでもビフィズス菌を利用するがん標的治療は,その優れた腫瘍選択性と高い安全性などの特徴から有力な微生物製剤として期待されている。しかし,ビフィズス菌に抗腫瘍作用を発現させるためには,通常,煩雑な遺伝子操作が必要である。
また,ビフィズス菌を含む細菌を利用するがん標的治療は,基本的には抗がん剤の運搬という,いわゆる従来型のドラッグデリバリーシステムの概念を出ない。
そこで研究では,機能性色素のインドシアニングリーンを封入したポリオキシエチレンヒマシ油から成るナノ粒子と天然のビフィズス菌を生理食塩水中で一晩混合し,洗浄するだけで,高い腫瘍標的能を有し,生体透過性の高い近赤外レーザー光によって近赤外蛍光と熱を発現するナノ複合化細菌の創出に成功した。
また,この細菌のこれらの特性を活用し近赤外レーザー光照射と組み合わせることで,体内の腫瘍を高選択的に検出し,標的部位を効果的に排除することが可能ながん光診断・治療技術を開発することに成功した。
さらに,マウスがん細胞とヒト正常細胞を用いた細胞毒性試験,ならびにマウスを用いた生体適合性試験(血液学的検査,組織学的検査など)を行なった結果,いずれの検査からもナノ複合化細菌が生体に与える影響は極めて少ないことがわかった。
これらの成果は,今回開発した細菌の簡便なナノ複合化技術が,がん光診断・治療法の基礎に成り得ることを示すだけでなく,研究グループは,ナノ・マイクロテクノロジー,光学,微生物工学といった幅広い研究領域における材料設計の技術基盤として貢献することを十分期待させるものだとしている。