大阪大学の研究グループは,世界最高感度のフィルム型ひずみゲージをスピントロニクス素子で実現した(ニュースリリース)。
ひずみや加速度,慣性力などの力学情報は,IoT社会の広い場面にとって極めて重要なセンシング対象となる。特に,フィジカル空間における最重要センシング対象は力学情報であると言っても過言ではない。
今回研究グループは,柔らかいプラスチックフィルム(フレキシブル基板)上に,ハードディスクの読み取りヘッドや固体磁気メモリに利用されている磁気トンネル接合を形成し,フィルム型のひずみゲージを作製した。
磁気トンネル接合は2層の磁性ナノ薄膜で絶縁体のナノ薄膜をサンドイッチした構造を持っている。フィルムを引っ張ると,磁気トンネル接合にひずみが加わり,2層の磁性ナノ薄膜の磁化の相対角度が変化する。これにより,トンネル電流の大きな変化,つまり電気抵抗の大きな変化が引き起こされる。
今回作成した磁気トンネル接合を用いたフィルム型ひずみゲージでは,約1000という巨大なゲージ率が実現された。これは広く普及しているフィルム型の金属箔ひずみゲージに比べ,500倍ものひずみ検出感度に相当するという。
一方,わずかだが外部から磁界を意図的に印加しないと安定した動作が得られなかった。そこで研究グループは,実用化されている磁気トンネル接合で良く使われている,交換バイアスという手段を用い,磁界を全く印加せずともひずみゲージとしての動作が得られることを実証した。このとき,ひずみを加えたりもとに戻したりしても,素子抵抗がひずみに対して一意に決まり,完全にリバーシブルな動作が引き起こせることも分かった。
さらに,今回の実験セットアップでは,高感度なひずみ検出動作を行うためにある程度のひずみを加える必要があること,つまり閾(しきい)ひずみが存在するという課題があった。そこで,研究グループはシミュレーションを行ない,この閾ひずみのメカニズムと,閾ひずみが存在しない条件を明らかにした。また,ひずみゲージとして利用する際に重要な,ひずみに対する電気抵抗の変化の線形性を保つための条件も調べた。
こうして高いゲージ率を保ちつつ,閾ひずみフリーで線形性を確保できる条件が明らかになったことで,研究グループは今後,このひずみゲージの社会実装に向けた取り組みが加速することが期待されるとしている。