筑波大,ウニが光刺激で泳ぐ方向を変えると発見

筑波大学の研究グループは,後口動物のうち,繊毛のみで運動するプランクトン性のウニ幼生が,強い光の照射により遊泳方向を逆転させることを発見した(ニュースリリース)。

地球上のほとんどの生物はその進化過程で,光に応答する運動器官として,単細胞生物は繊毛や鞭毛を,多細胞動物は筋肉組織を獲得し,光を受容しそれぞれの運動器官にシグナルを伝える経路を発達させてきた。

しかしながら,ヒトを含む後口動物では,光応答として,筋肉の動きを伴う反応が目立ちすぎるため,繊毛を動かす仕組みも存在するのか,また機能しているのかを明確に示す実験的なデータはこれまで存在せず,単細胞生物や前口動物の一部で見られる光受容から繊毛運動へのシグナル伝達経路が,後口動物ではどのような存在であるのかを明らかにする必要があった。

研究ではまず,顕微鏡下で,ウニ幼生に太陽光の半分程度の強さの光を当て,その行動を観察した。その結果,強い光を照射した瞬間に周囲の水流が反転することを発見した。これは,ウニ幼生の遊泳方向が光の照射により逆転することを示している。

次に,体中のどの組織が光受容から繊毛運動への応答経路を担っているのかを確認するため,脳領域(前端部神経外胚葉:脊椎動物の脳に相当する部位)と,腕と呼ばれる突起状の構造を別々に切り取り,光に対する応答を調べた。

その結果,脳領域と腕の両方を同時に切断した場合にのみ,光応答としての遊泳の逆転が見られなくなり,ウニ幼生の光受容体は脳領域または腕に存在すると考えられた。また,ウニ幼生の脳領域と腕の神経の働きと,今回発見された光と繊毛運動の変化の間に,何かしらの関係性が存在する可能性も強く示唆された。

研究グループは,これまでに,ウニ幼生の脳領域近傍には光受容体タンパク質のオプシンの一種であるGo-Opsinが発現しており,光情報を消化管活動へと伝達する機能を担っていることを報告している。

幼生時に発現しているもう一つのオプシンであるOpsin2に着目して検証した結果,光刺激がOpsin2に伝わると,コリン作動性神経から前方への遊泳をもたらすシグナル伝達経路が抑制され,強い光に照射されると遊泳行動が逆転する現象が起きていることが明らかになった。

研究グループは,今回明らかになった光に応答して繊毛運動に変化をもたらすシグナル伝達経路は,さまざまな生物の行動メカニズムの解明につながることが期待されるとしている。

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