東京大学の研究グループは,ダイアモンドの双子の兄弟「ポルクス」を化学合成により世界で初めて登場させた(ニュースリリース)。
ダイアモンド構造の美しさは数学的にも解明され,三次元空間を「完全対称性」と「強等方性」を有するように炭素原子を充填した物質であることが提唱されている。
この「完全対称性」と「強等方性」を解明した数学的アプローチから,「完全対称性」と「強等方性」を持つ炭素性物質が,ダイアモンド以外にもう一つだけ存在しうることが提唱されている。このネットワークが広く興味を集めてきた理由の一つに,ダイアモンドにはない特異な「キラリティ」が存在することがある。
しかし,これまで「炭素からなるダイアモンドの双子の兄弟」は,理論上・想像上の物質であり,その特異なネットワーク構造が実在物質として存在したことはなかった。
今回,研究グループは,この「ダイアモンドの双子の兄弟」の最小かご単位の化学合成に成功。無限長の炭素ネットワークをポルクス(pollux),最小かご単位をポルクセン(polluxene)と命名した。
ポルクセンは,ポルクスの対称性を保った最小かご単位であり,今回の研究では,かご構造の14の頂点にベンゼン環を配置する新設計が着想されている。もともとのポルクスはsp2-混成型の炭素を平面三角形の基本構造としたネットワークとして提唱されたものだが,これをベンゼン環で置き換えようと着想した。
研究グループはこれに基づき,14のベンゼン環を頂点とし,15の炭素・炭素結合の辺で結び,ポルクセンの化学合成に成功している。この合成では,芳香族カップリング反応と呼ばれる「日本発」のカップリング反応を活用することで,簡便で効率的な合成法を実現した。
今回の研究では,さらに,ポルクス・ポルクセンの「キラリティ」の秘密を紐解くことに成功した。ポルクスのネットワークには「右手・左手」のように鏡に映した関係となる対掌性・キラリティが存在することは提唱されていた。
今回,研究グループでは,ポルクセンの「キラリティがないもの」と「キラリティがあるもの」とを別々に合成し,さらに,理論・数理解析を行なった。その結果,ポルクス・ポルクセンの構造には,非常に複雑な立体異性が存在しており,可能となる最小かご単位の構造は,5600種にものぼることがわかった。そして,キラリティを固定化する手法が工夫され,鏡像関係にあるキラルな2種を化学合成し,それぞれキラル物質として単離することに成功した。
今回,「ポルクス」「ポルクセン」が実在化されたことで,今後のナノカーボン材料の開発への発展が期待される。とくに,複雑な立体異性やキラリティが存在することが実証されたことで,キラル材料として注目が高まるとしている。