東大,火星コアの液体での状態を光で観察

東京大学大の研究グループは,大型放射光施設SPring-8を利用して,火星のコアを構成している可能性が高い,鉄-硫黄-水素合金の高圧高温下での液体の存在状態を明らかにした(ニュースリリース)。

従来,火星のコアは硫黄を多く含む液体鉄で構成されていると考えられてきた。

しかし,最近報告されたNASAの火星内部探査機インサイトによる内部構造探査の結果によると,火星コアは今までに予測されていたよりも密度が小さく,硫黄に加えて多くの水素も含まれている可能性がある。しかし,液体の鉄-硫黄-水素合金の高圧下での振る舞いについてはこれまで調べられてこなかった。

研究では,レーザー加熱式ダイヤモンドアンビルセル(LH-DAC)を用いた超高圧高温実験に,大型放射光施設SPring-8のビームラインBL10XUにおけるX線回折と,集束イオンビームを用いた回収試料の断面観察を組み合わせることにより,鉄-硫黄-水素合金が超高圧高温下で液体であった時にどのような状態で存在していたかを観察した。

LH-DACを用いた実験では,地球や火星内部に相当するような高い圧力下において鉄を溶かすほどの高温を発生させることができる。加えて,SPring-8におけるX線回折により,大気圧下では測定することができない鉄中の水素濃度の測定を高圧下で行なうことが可能になった。

実験の結果,火星コアが十分に高温であれば,液体鉄-硫黄-水素合金は単一の均質な液体として存在するのに対し,より低温下では硫黄に富む液体と水素に富む液体の二相に分離することが分かった。

今回得られた液体鉄-硫黄-水素合金が二相に分離する条件は現在の火星コアの圧力温度条件と重なる。火星は約40億年前までは磁場が存在していたが,その後失われたことが分かっており,その原因は大きな謎となっていた。また磁場の消失は,火星大気中の水素の宇宙への散逸と海の蒸発につながったと考えられている。

この研究の結果から,火星コアが冷却に伴って二相に分離したことが,初期の火星においては惑星磁場の生成に必要なコアの対流を駆動して磁場を生み出し,さらには二相分離が進んで,その後の対流の抑制と磁場の消滅につながった可能性が高いことが明らかになった。

研究グループは,今後,NASAの火星内部探査機インサイトによる観測によって火星コアの状態がより詳細に解明されれば,このような火星磁場形成と消滅のシナリオの妥当性が検証され,火星の歴史の解明が大きく進むと期待されるとしている。

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