府大ら,遷移金属酸化物の近藤効果を初めて実証

大阪府立大学,早稲田大学,京都大学,広島大学,独マックスプランク研究所,墺ウィーン工科大学は,銅(Cu)とルテニウム(Ru)からなる酸化物(CaCu3Ru4O12)のX線光電子分光を測定し,CaCu3Ru4O12では,遷移金属の酸化物ではほとんど報告例がない近藤効果が実現していることを初めて実証した。

遷移金属の酸化物や希土類元素からなる化合物は,電気抵抗がゼロになる超伝導体や磁性材料として,現代のテクノロジーを支えており,これらの物質の多種多様な性質には,スピンが重要な役割を果たしている。

しかし,ある物質では温度を下げると,この電子のスピンが巨視的なスケールで消失する現象,近藤効果が起こる。1964年にこの現象は「磁性元素と伝導電子の間の量子力学的な相互作用」に由来することが明らかにされたが,その後,超伝導や磁性から素粒子物理学や原子核物理学まで,広範囲の物理現象と深い関わりがある現象であることがわかってきた。

材料科学においては,量子情報デバイスの素子としても期待される半導体量子ドットの設計や,電子のスピンを利用して高効率デバイスの創造を目指すスピントロニクスの分野でも重要な役割を担い始めている。

近藤効果は,希土類元素の化合物では多くの物質で発見されており,電子質量が異常増大する重い電子現象や超伝導などを理解・設計する基本概念として定着している。その一方で,遷移金属の酸化物では,近藤効果の実現がはっきり裏付けられた物質はこれまで見つかっていなかった。

研究グループは今回,CaCu3Ru4O12のX線光電子分光を測定し,独自に開発した計算パッケージを用いて,高精度な理論解析を行なった。その結果,CaCu3Ru4O12では,遷移金属の酸化物ではほとんど報告例がない近藤効果が実現していることを初めて実証した。

近藤効果は,電気抵抗がゼロになる超伝導現象や電子の質量が有効的に異常増大する重い電子現象など,様々な量子物性の発現メカニズムと密接な繋がりがある。今回の結果は,近藤効果が実現する遷移金属酸化物の物質群(四重ペロブスカイト遷移金属酸化物)の存在を示唆するもの。

研究グループは,更なる物質合成を進めることで,近藤効果に由来する新奇物性の発見が期待されるとしている。

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