東京工業大学,日産自動車,出光興産は,世界最高性能をもつフォトン・アップコンバージョン(UC)の固体材料を開発した(ニュースリリース)。
現在,太陽光に適用しうるUCの方式は,有機分子間の励起エネルギー移動を用いる方式(TTA方式)のみとなっている。
この方式による研究の多くは分子を有機溶媒などに溶かした液体の形態で行なわれてきた。しかし,少数の例外を除き,液体系の試料には溶媒の蒸発や着火,沸騰などのリスクが伴うため,近年ではUC材料の固体化が追求されていた。
TTA方式は,長波長の光子をキャッチする「増感分子」を,その励起状態を受け取って短波長シフトした光子を出す「発光分子」の固体中に低濃度で散らして存在させる必要があるが,多くの場合,増感分子同士が凝集してしまい,高いUC効率を目指す上での障害となっていた。
この回避のため,従来の研究ではしばしば「増感分子同士が凝集し始める前に,急速な溶媒の蒸発や溶液中での析出によって,速やかに固体を生成する」という方法がとられてきた。しかし,このような高速法で作られた固体は一般に欠陥を多く含む微結晶粉なため低効率で,有意なUCに要する光照射強度の閾値も比較的高かった。また,連続的な光照射下での安定性データも示されてこなかった。
そこで研究グループは「二成分があるときは,わずかでも互いに混ざり合う方が安定」という法則(エントロピーの自発的な増大則)に着目。高品質な固溶体結晶の選択的生成を追求した。
具体的には,増感分子には緑色光を吸収して励起三重項状態を高効率で生成する分子を選んだ。そして,青色発光分子として,応用時にコストの抑制を行なえる炭化水素分子(ANNP)を用いることによってこの着想を実現できることを見出した。
生成条件の最適化の結果,透明なANNPの結晶中に増感分子が固溶した,薄ピンク色をした1mm前後の結晶を得た。結晶に波長542nmの緑色光を照射したところ,波長434nmにピークをもつ青色のUC発光が得られた。さらに,UCに要される光照射強度の閾値を調べたところ,最高で約16%(=理論上限の32%)と非常に高いこと,および光照射の閾値強度が極めて低いことが見いだされた。
別の実験から,この試料の閾値が太陽光強度の約5分の1と前例のない低さであることが判明し,入射太陽光の集光が不要であることを示した。さらに,空気中における長時間の光照射に対しても極めて高い安定性を有することが明らかになった。
研究グループは今後,さらに好適な発光分子を探索し,研究を発展させてゆくとしている。