東大,もつれガンマ線によるpHイメージングに成功

東京大学の研究グループは,薬剤集積とpH等の化学環境を同時にイメージング可能な核医学の新しい手法を考案・確立した(ニュースリリース)。

ガンマ線を用いた核医学診断技術は,悪性腫瘍の早期発見や診断に重要な技術であり,体外から非侵襲的に分子動態の観測が可能なため,臨床で広く用いられている。

一方で従来の核医学診断技術においては,薬剤の集積状況のみの可視化が可能であり,pHや分子の化学的結合状態,分子間相互作用などの生体内局所環境を直接観測する技術は存在していなかった。

pHや化学環境の観測は,薬剤プローブの集積情報に加えて,例えば悪性腫瘍の悪性度などのより高次の情報を取得できる可能性を有している。蛍光を用いたイメージングではそのような技術が存在しているが,可視光領域の光の透過力は低いため臨床で用いることが困難という課題があった。

そこで研究グループは,医学利用が可能な核医学技術において,集積以外の局所環境をイメージング可能な新たな手法の創出を目指した。研究では,臨床で用いられているSPECT薬剤の中でガンマ線光子を時間的に連続して放出するカスケードガンマ線放出核種である111In(インジウム)に着目。

111Inは85nsの中間状態時定数をもって2本のもつれガンマ線光子を放出することが知られているが,これらの2本のガンマ線の間には核スピンに由来する空間的な放出相関(角度相関)が存在する。さらに,角度相関は中間状態において,原子核周囲の微弱電磁場と超微細相互作用により摂動を受け変化する。

研究グループで開発した高精度のガンマ線検出器アレイを用いて,これらのもつれガンマ線の時空間相関を定量化することで,顕著なpH依存性を示すことを明らかにした。また,悪性腫瘍を検出する抗体に結合させた状態とそうでない状態でもガンマ線の放出相関に変化があることを確認した。さらに,開発したイメージング装置を用いて,ガンマ線の時空間相関から薬剤の集積とpHの推定の同時イメージングに初めて成功した。

この成果により,従来の核医学の悪性腫瘍の早期発見等の診断に加えて,局所化学環境等の高次診断が可能になることが期待される。また研究では,pHを指標とした計測に成功したが,111In等のもつれガンマ線光子放出核種は,局所の電磁場環境を,ガンマ線という高いエネルギーを持ち,遠距離伝送ができるもつれ光子の相関に転写する事ができる新たな量子センサとみなすことが可能だという。

研究グループは今後,人での利用が可能な非侵襲的なイメージングセンサのプラットフォームとして多くの応用が想定されるとしている。

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