物質・材料研究機構(NIMS)は,ダイヤモンド電界効果トランジスタを新しい設計指針に基づいて作製し,高い正孔移動度とノーマリオフ動作を示すことを実証した(ニュースリリース)。
ダイヤモンドは,ワイドバンドギャップ半導体として優れた特性を持ち,パワーエレクトロニクスや情報通信用途での利用が期待されている。
すでに実用化されている炭化シリコン(SiC)や窒化ガリウム(GaN)に比べてもバンドギャップが大きく,より高電圧・高温・高速・低損失で動作する素子を作れる可能性がある。これまでに特に,水素終端ダイヤモンド(表面の炭素が水素と結合したダイヤモンド)を使った電界効果トランジスタについて,多くの研究開発が行なわれてきた。
しかしトランジスタ構造にすると,移動度が本来の1/10~1/100に低下するなど,ダイヤモンドの優れた特性を十分活かすことができていなかった。
今回研究グループは,従来主に使われてきたアルミナなどの酸化物の代わりに六方晶窒化ホウ素をゲート絶縁体として使うとともに,水素終端ダイヤモンド表面を大気に晒さない新しい作製手法を用いることで,高性能なトランジスタの開発に成功した。
オン状態(正孔の密度が高い時)の室温移動度は,680cm2V-1s-1と,酸化物などのゲート絶縁体を使った一般的な手法に比べて5倍以上に向上した。高い移動度は,抵抗を下げて損失を低減し,素子の高速化や小型化にも適する。同時に,パワーエレクトロニクスで安全性の観点から重要となるノーマリオフ動作も実現した。
この成功の鍵として,水素終端ダイヤモンドに電気伝導性を生じさせるために必要不可欠だと考えられてきたアクセプタについて,実験と理論の比較により,アクセプタがトランジスタの性能を制限しており,むしろ取り除くべきだという従来とは逆の発想に基づく素子構造を,上記の作製手法によって実現できたことが挙げられるという。
この成果は,今後のダイヤモンドトランジスタ開発の新しい指針を提供するもので,パワーエレクトロニクスや情報通信の分野で利用できる高性能な素子の実現につながると期待される。研究グループは今後,さらなる特性向上を追究するとともに,より実用に適したダイヤモンドトランジスタの開発を目指すとしている。