慶應義塾大学と神戸大学は,有機材料の光照射により吸収された光子数に対して二倍の励起子へ変換する「一重項分裂」の高効率化による有用なエネルギー利用の実現に向けた新たな材料設計の新概念を提案し,実証実験にて励起子生成効率200%を達成した(ニュースリリース)。
通常,分子に一つの光子が吸収されると一つの励起子しか生成されないが,一光子の吸収過程から二つの励起子を生成する一重項分裂が近年注目を集めている。しかし,この現象をさらなる化学反応に利用するには,一重項分裂によって生成された三重項状態の励起子を高効率かつ長寿命で実現する必要がある。
そこで研究グループは,一重項分裂による高効率かつ長寿命の三重項励起子生成の材料設計指針を明らかにするために、構造パラメーターとして従来の「電子カップリング」(electronic coupling)だけでなく,二分子間の構造変化に関連した「立体柔軟性」(conformational flexibility)の導入を検討した。
実験的に検証する材料としてベンゼン環が直線上に縮環したアセン系分子に着目し,ベンゼン環が6つのヘキサセン,5つのペンタセン,4つのテトラセンから構成され,フェニルおよびビフェニル基をスペーサーとして距離や配向の異なる一連の各二量体を合成した。
実験では,電気化学や定常分光による実験手法,理論計算により二分子間をつなぐスペーサーの種類に応じてこれら2つのパラメーターを評価し,高効率かつ長寿命な三重項励起子の実現にはこれら2つのパラメーターの協同効果が不可欠であることを明らかにした。
今回実現した高効率励起子を利用することで物質・エネルギー変換に有用な電子移動では約170%,光線力学療法(光による癌治療)・有機合成等に有用な一重項酸素(活性酸素の一種)の発生では約160%の量子効率を実現し,その有用性を実験的に明らかにした。
研究グループは,今後,太陽光を用いたエネルギー変換・エレクトロニクス・量子情報通信・生命/医療分野等への貢献が期待されるとしている。