名古屋大学,関西BNCT共同医療センター,京都大学は,がん治療に用いるホウ素中性子捕捉療法(BNCT)装置からの中性子照射による発光を検出することで,中性子分布イメージングを実現した(ニュースリリース)。
BNCTは,ホウ素原子と中性子との核反応を利用して,がん細胞を内部から選択的に破壊・死滅させる治療法で,すでに臨床利用が始まっている。
臨床利用を効率的に進めるためには,BNCT装置からの中性子分布を短時間で精度よく計測することが求められる。しかし現状は,測定に金箔の放射化を測定する方法などが使われているが,時間と労力を要するという問題点があった。
これまで研究グループは,粒子線が水やアクリルブロック中で微弱光を発する「放射線照射による物質の発光現象」を発見し,この光を高感度カメラで撮像することで,粒子線が水などに与える線量分布を得ることができることを実証してきた。今回,この手法を応用することで,中性子の線量分布を画像化できる可能性があることに着目し,BNCTからの中性子分布イメージングを試みた。
研究グループは,BNCT装置からの中性子線をコリメータで絞り,水容器に照射した。この水容器の中に,リチウム(Li-6)を含むシンチレータを配置した。リチウム(Li-6)は中性子を吸収し,核分裂によりアルファ線とトリチウムを発生する。発生したアルファ線とトリチウムは,シンチレータ中で発光するので,この発光を側面に配置した光学カメラで撮像したところ,中性子の照射時間0.5秒で,鮮明な発光画像を得ることができた。
発光画像の深さ方向の輝度分布を調べると,金箔を用いて測定した中性子分布や,シミュレーションを用いて計算した分布と良く一致した。また発光画像の垂直方向の輝度分布でも,金箔を用いて測定した中性子分布や,シミュレーションを用いて計算した分布と良く一致した。
また,この研究成果に先駆け,シンチレータを用いないで水にBNCT装置からの中性子を直接照射するイメージング実験も行なった。その結果,中性子が水分子の水素原子に吸収された後に放出される,高エネルギーガンマ線(2.2MeV)によるチェレンコフ光をイメージングできた。これも世界で初めての成果だという。
この研究は光学的手法を用いることにより,短時間で,BNCT装置からの中性子分布を精度よく計測することができることを明らかにした世界初の成果。研究グループは,今後,今回得られた成果を元に,装置の製品化を目指すとしている。