分子科学研究所と富山大学は,乾電池1本をつなげるだけでディスプレー並みの明るさで発光する,世界最小電圧で駆動する有機ELの開発に成功した(ニュースリリース)。
有機ELの発光効率は,電荷注入によって生成した励起子を効率良く発光させるメカニズムが開発済みのため,既にその内部量子収率は100%に到達している。
一方で,多層化が必要なことや材料中の電荷の移動度が低いことなどが原因で,駆動電圧が大きいことが問題とされ,省エネルギー化への課題とされている。例えば,600nm程度のオレンジ色の光をディスプレー程度の発光輝度である100cd/m2で発光させるためには,4.5V程度の電圧(乾電池3本分)が必要となる。
今回,研究グループは,二種類の有機半導体材料の界面でのアップコンバージョンを用い,その効率を向上させた。発光プロセスは注入された電子と正孔が,電子輸送層と正孔輸送・発光層の界面で出会い再結合することから始まる。その後,再結合によって生成した二つの三重項励起状態が衝突し,一つのエネルギーの高い一重項励起状態を作り出すアップコンバージョンを経て発光する。
通常の発光層を電子/正孔輸送層でサンドイッチした構造の有機EL素子は3.5V程度から発光を開始する。一方で,今回開発したこの界面でのアップコンバージョン過程を利用した有機EL素子ではオレンジ色の608nm(2.04エレクトロンボルト)の光が,その光のエネルギーよりもはるかに小さな電圧である1V以下から発光を開始することがわかった。
さらに電子輸送層にフラーレンの代わりに結晶性の高いペリレンジイミドを用いることで,界面での有機分子同士の相互作用をコントロールし失活を抑制したこと,また発光層にペリレン蛍光体をドープすることで発光を促進させたことで発光輝度が大幅に向上し,従来のアップコンバージョン過程を用いた有機EL素子よりも約70倍高い発光効率を実現した。
その結果,従来の1/3程度の起電力である乾電池1本をつなげるだけで,ディスプレー程度の発光輝度である100cd/m2以上の明るさで発光できる世界最小電圧で駆動する有機EL素子の開発に成功した。
この研究により,有機ELを発光させる駆動電圧を従来の1/3程度まで大幅に低減することができた。研究グループは今後,アップコンバージョン過程を経た発光プロセスの変換効率をさらに向上させることで,有機ELの駆動電圧の低減と発光効率をさらに高いレベルで両立させ,市販の有機ELの消費電力を減らし省エネルギー化の実現を目指すとしている。