北陸先端科学技術大学院大学(JAIST),京都大学,物質・材料研究機構は,熱により励起された磁気の流れ(熱マグノン流)をダイヤモンド中の窒素-空孔複合体中心(NV中心)と呼ばれる極小な量子センサーを用いて計測することに成功した(ニュースリリース)。
近年,量子力学を原理とした新しい計測技術に基づき従来の性能を凌駕する量子センシング分野の発展が期待されている。その中でも,ナノサイズの量子センサーとしてダイヤモンド中の欠陥構造であるNV中心が注目されている。
デバイスの微細化とともに多くのエネルギーが熱として浪費されることから,電流を用いずに電子の自由度であるスピンを用いるスピントロニクス分野が期待され,その中でもスピンと熱の相互作用を積極的に利用することで問題を解決しようとするスピンカロリトロニクスが注目されている。
従来,量子センシング分野とスピンカロリトロニクス分野は独立に発展してきたが,研究グループは今回,これらを融合した分野の発展に繋がる新手法を実証。研究では,熱により励起された磁気の流れ(熱マグノン流)を,NV中心に存在する量子スピン状態により計測が可能であることを実証した。
まず,磁性ガーネット試料(Y3Fe5O12:YIG)中に温度勾配を印加して熱の流れを創り,これにより熱励起された磁気の流れ(熱マグノン流)を生成する。続いて,試料端でマイクロ波によりコヒーレントなスピン波を生成して試料中に伝搬させた。
この状況で試料中央にはダイヤモンドNV中心を含有したダイヤモンド片がYIGに近接され,このダイヤモンドNV中心を用いてスピン波を計測した。今回,スピン波の強度を,光学的磁気共鳴検出法を用いたNV中心のラビ振動により計測し,熱マグノン流による変調信号を観測することに成功した。
研究では,スピン波を介して熱マグノン流を量子センサーであるNV中心を用いて計測することに成功した。これは,量子センシングとスピンカロリトロニクス分野を融合する新手法となることを示唆する成果だという。
特に,NV中心はナノスケールの分解能で量子計測が可能であり,研究グループは,将来的には熱マグノン流に関する現象をナノスケールで計測すること,さらには熱マグノン流とNV中心の量子状態との相互作用に関する新しい研究展開を可能にし,スピンカロリトロニクスと量子センシングの融合研究への貢献が期待されるとしている。