東大ら,赤外透明電極の合成に成功

東京大学,ノルウェー科学技術大学,名古屋工業大学,筑波大学,英ロンドン大学は,タングステンが5価の陽イオンとして酸化スズ結晶中のスズ原子を置換することで高い電子移動度を発現することを明らかにし,タングステンのd軌道と酸素のp軌道の混成によって5価の状態が安定することを示した(ニュースリリース)。

ドナー不純物としてスズ(Sn)を添加した酸化インジウム(In2O3)や,フッ素を添加した酸化スズ(SnO2)が実用的な透明電極として用いられているが,これらの材料は高い電気伝導性を得るために高濃度の電子をドープしている。

しかし,高濃度の伝導電子は赤外線を反射することから,低い電子濃度でも高い電気伝導性が得られる透明電極材料が求められている。

In2O3やSnO2といった伝導帯が金属のs軌道からなる酸化物半導体にドナー不純物として遷移金属を添加すると,高移動度の透明電極となることが報告されている。これはドナー不純物のd軌道が酸化物半導体の伝導帯と混成せず,電子状態を乱さないためと考えられている。

これらの物質では,ドナー不純物のd軌道のエネルギーが分裂することで安定な電荷状態が変化するが,移動度を低下させる要因であるイオン化不純物散乱が最小となる母結晶の金属イオン(In3+やSn4+)よりも+1だけ価数の大きな状態を安定化することが重要となる。しかし,そのような電荷状態を安定化する機構や方法は完全には確立されていない。

今回,研究グループはパルスレーザー堆積法を用いて,ルチル型結晶構造を持つSnO2にドナー不純物としてタングステン(W)を添加した単結晶薄膜を酸化アルミニウム基板上に合成し,電気伝導特性を調べた。Wの添加量を最適化することで13Ωsq-1のシート抵抗と波長2μmの赤外光に対して約80%の光透過率をもつ赤外透明電極の合成に成功した。

添加したWの位置や電荷状態を調べた結果,WがSnO2中のSn4+よりも+1だけ価数の大きな+5価(W5+)としてSnを置換し,イオン化不純物散乱が抑制されていることが確認できた。

さらに,6族の元素であるWがSnO2結晶中で+5価の状態で安定に存在する機構について,Wの5d軌道が①バンドギャップ内の深い準位と②伝導帯下端よりも高エネルギーの準位に分裂し,①の準位が電子を1つトラップした高スピン状態となり,②の準位が電子を1つ伝導帯に放出することで+5価の状態が安定化することがわかった。

また,このWの5d軌道の分裂は,周囲の酸化物イオン(O2-)の負電荷による効果(結晶場分裂)では説明できず,O2-のp軌道との混成によって引き起こされている(配位子場分裂)ことを明らかにした。

従来の研究では,結晶中の酸素は単なる負電荷として扱われてきたが,ドナー不純物との軌道の混成も考慮することで,新たな透明電極の開発が期待されるとしている。

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