東北大学の研究グループは,高速書き込み動作を特徴づける時定数を制御できる磁気トンネル接合(MTJ)(STT-MRAM の情報記憶素子)の構造を提案し,5nm以下の直径を有するMTJ素子で3.5ナノ秒までの高速書き込み動作を実証した(ニュースリリース)。
不揮発性メモリであるスピン移行トルク磁気抵抗メモリ(STT-MRAM)並びにそれを混載メモリに適応した省電力ロジックは,半導体集積回路の大幅な低消費電力化が期待されている。
だが,STT-MRAMの情報記憶を担いその性能を決める磁気トンネル接合(MTJ)素子において,膜厚が厚い形状磁気異方性MTJ素子では,ラストレベルキャッシュ用SRAMに匹敵する10ナノ秒よりも高速なデータ書き込みの実現が課題となっていた。
研究グループはが今回開発したMTJ素子の特長は,研究グループが2020年に提案した形状磁気異方性MTJ素子と補完し合っており,用途に応じてそれぞれのMTJ素子を使い分けることが可能となるという。
数ナノ秒(歳差)領域の高速磁化反転(データ書き込み)では,熱ゆらぎによる助けなく磁化が反転しなければならず,印加電圧のパルス幅が短くなるほど反転電圧が増加する。
この歳差領域での反転電圧増加を抑えるには,高速磁化反転動作を特徴づける時定数である緩和時間を制御する(短くする)ことが必要になる。これには,MTJ素子のCoFeB層の膜厚を薄くしながら磁気異方性を大きくすることが必要になる。
これを実現するために,CoFeB/MgO界面の数を増やし界面磁気異方性の寄与を大きくしながらCoFeB層の膜厚を薄くした積層磁性体構造を開発した。極微細領域では積層磁性体が,古典的電磁気学的な効果である静磁気的な相互作用により結合しているため,MgO挿入層で隔てられたCoFeB層がひとつの記録層として振る舞うことが明らかになっている。
この構造を適用したMTJ素子を実際に作製したところ,世界最小の直径2.0nm(20Å)までの極微細MTJ素子の動作を確認した。またMTJ構造を変化させることで直径5nm以下のMTJ素子で歳差領域の反転電圧増大を抑制しながら,10ナノ秒以下の高速書き込みを実現した。
これは,STT-MRAMが将来のオングストローム世代の半導体製造技術でも,SRAMや比較的高速なDRAMの代替としても使えることを示す重要な成果だという。
研究グループはこの成果により,超大容量・低消費電力・高性能不揮発性メモリ,およびそれを用いた超高性能・低消費電力半導体集積回路の開発が加速するとしている。