東京大学,理化学研究所,仏エコールポリテクニーク,ポーランド科学アカデミーは,ハーフホイスラー超伝導体であるLuPdBiの超伝導状態を明らかにした(ニュースリリース)。
物質が超伝導状態になると2つの電子がペア(クーパー対)状態を形成し,その対状態のスピン構造によって超伝導状態が分類される。しかし近年,従来のスピン一重項,三重項の枠組みを超えた新奇な対状態の可能性が理論的に指摘され,その実験的な検証が期待されていた。
実際にこれらの新奇超伝導状態を実現する候補物質として,ハーフホイスラー超伝導体が挙げられる。この系では,電気伝導特性に寄与する電子が強いスピン軌道相互作用により4つの角運動量自由度を持っており,それらが対状態を形成していると考えられている。
さらに,ハーフホイスラー化合物は空間反転対称性が破れた結晶構造を持っているため,異なるパリティの対状態が混成した状態が可能となり,この点も新奇な超伝導状態を実現する上で有利に働くと考えられている。しかし,ハーフホイスラー超伝導体は超伝導転移温度が低く,その超伝導状態の研究はあまり行なわれてこなかった。
研究では,ハーフホイスラー超伝導体の中で最も超伝導転移温度の高いLuPdBiに注目し,磁場侵入長測定から超伝導状態の解明を試みた。さらに,電子線照射によってLuPdBiに伝導キャリア密度と不純物濃度を同時に制御できることを明らかにし,電子線照射と磁場侵入長測定を組み合わせることでより詳細な超伝導状態の解明を試みた。
その結果,電子線照射によってノード構造が非単調に変化することを発見した。この結果は,パリティ混成した超伝導状態が実現していることを強く示唆しており,その混成の度合いを電子線照射によって制御できることを示すという。さらに,その非単調な振る舞いは一重項と七重項が混成しているモデルで系統的に説明できることがわかった。
この研究結果は,従来の超伝導対状態の枠組みを超えた七重項状態が実際の物質中で実現しており,さらにその混成度合いを電子線照射により制御可能であることを示すもの。研究グループはこの研究について,超伝導状態の基礎的な理解を大きく進展させるものであるとしている。