理科大,キラルなスルホキシドの新規合成法を開発

著者: sugi

東京理科大学の研究グループは,光増感剤を用いたキラルなアルキルアリールスルホキシドの光ラセミ化を高速で行なえる技術を開発した(ニュースリリース)。

キラルなスルホキシドは,硫黄原子を中心としたピラミッド型構造をとり,その反転に約200℃というかなり極端な高温条件が必要となることから高い熱安定性を持つ。しかし,光照射によってキラルなスルホキシドは容易にラセミ化する。

これまで,光増感剤の存在下でのアルキルアリールスルホキシドのピラミッド型構造の反転がいくつか研究されてきた。この反応は,スルホキシドラジカルカチオンの可逆的な形成を伴う電子移動プロセスによって進行すると言われている。

そこで研究グループは,光増感剤の存在下での新規高速光ラセミ化反応の開発を目指した。初めにアルキルアリールスルホキシドの光ラセミ化反応の最適条件の検討を行ない,最も短い時間でキラルなスルホキシドをラセミ化できる最適な光増感剤及び最適な波長を見出した。

この反応条件を用いて一般的なアルキルアリールスルホキシド20種類の光照射による高速ラセミ化を達成した。最も早いものは1秒以内でラセミ化する。一方,一部のスルホキシドでは光ラセミ化反応が進行しないということも明らかになった。すなわち,特定の官能基を構造中に含むスルホキシドでは光ラセミ化が妨げられることがわかった。

そこで酸化還元電位の測定を行ない,酸化されやすい官能基を持つキラルなアルキルアリールスルホキシドでは,スルホキシドに先んじてこれらの官能基が酸化され,光ラセミ化反応が進まないことが明らかになった。また,サイクリックボルタンメトリーで測定した官能基の酸化還元電位は,この光異性化反応における反応性基と非反応性基を予測するのに有用なことが示唆された。

さらに,ラセミ化のメカニズムを明らかにすべく,重要な中間体であるスルホキシドラジカルカチオンが形成されると仮定して,計算的手法で検討を行なった。スルホキシドのラジカルカチオンの立体構造を計算した結果,スルホキシドが平面性を有するため,光ラセミ化を容易にすることが明らかとなった。

これらの実験により,1mol%の2,4,6-トリフェニルピリリウムテトラフルオロボレート(TPT+)の存在下で,キラルなアルキルアリールスルホキシドの迅速な光ラセミ化を達成した。この手法では,一般的なアルキルアリールスルホキシドについてラセミ化反応が極めて高速に進行したという。

研究グループは,この成果により不斉源が存在しなくてもキラルなスルホキシドを供給できる新たな合成法が実現し,光学活性な医薬品製造や機能性材料の製造に役立つとしている。

キーワード:

関連記事

  • 京大ら,深赤色から近赤外光で作動する有機触媒反応を開発

    京都大学と東和薬品は,深赤色から近赤外光(波長600〜800nm)で作動する有機触媒反応の開発に成功した(ニュースリリース)。 光を利用した化学反応(光触媒反応)は,環境負荷が低く選択的な有機合成法として注目を集めている […]

    2025.11.07
  • 阪大ら,光に応答した分子を細胞内で可視化

    大阪大学と東京大学は,光照射によりアルキンへと変換される新しい化学構造を開発し,この構造を観察対象となる分子に修飾することで,光に応答した分子を細胞内で可視化することに成功した(ニュースリリース)。 これまで,生体内分子 […]

    2025.10.24
  • 名工大ら,ホウ素化合物を可視光エネルギーで合成

    名古屋工業大学と独アーヘン工科大学は,これまで過酷な反応条件を要していたポリフルオロアレーン類のC-F結合ホウ素化反応と比較的困難であったポリフルオロアリールホウ素化合物の鈴木・宮浦クロスカップリング反応の開発に成功し, […]

    2025.09.29
  • 近畿大ら,高圧環境下での円偏光発光の計測に成功

    近畿大学と日本分光は,静水圧(100MPa)という高圧環境下での円偏光発光の計測に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。 特定の方向に振動する光を偏光といい,中でも円偏光はらせん状に回転する特殊な光で,次世代のセンシ […]

    2025.09.16
  • 科学大,分子捕捉/放出可能な芳香環チューブ開発

    東京科学大学の研究グループは,作製後に,多段階かつ複数箇所で化学修飾できる芳香環チューブの開発とその空間機能の開拓に成功した(ニュースリリース)。 リングやチューブなどの環状構造を持つ分子は,空間内部を分子の捕捉・識別・ […]

    2025.09.12
  • 阪大ら,高効率な室温りん光を示す分子液体を開発

    大阪大学と九州大学は,室温で液体状態の有機分子から世界最高効率のりん光を得ることに成功した(ニュースリリース)。 りん光は有機ELやバイオイメージングに有用な発光機能の1つで,古くから研究されてきた。これまでは,室温で高 […]

    2025.09.09
  • 京大ら,電子効率を大きく高めた光触媒構造体を形成

    京都大学,シンガポール国立大学,シンガポール南洋工科大学,シンガポール材料技術研究所は,電子移動を最適化した共有結合性有機構造体(COF)を用いて,光の利用効率を大きく高めた光触媒活性COFの形成に成功した(ニュースリリ […]

    2025.09.03
  • 京大ら,シリカのキラル光学信号発現と増幅起源解明

    京都大学と仏CNRS大学は,シロキサン環構造の立体配座に着目し,シリカのキラル光学信号の発現と信号増幅の起源を明らかにした(ニュースリリース)。 キラルな分子集合体を鋳型に用いたソルゲル法により合成されるシリカは,キラル […]

    2025.09.01
  • オプトキャリア