鳥取大ら,極薄膜物質の原子配列解析を加速

鳥取大学,高エネルギー加速器研究機構(KEK),九州大学,東京大学は,測定データに対する新しい解析法を提案し,スーパーコンピュータを用いて,低速陽電子実験施設(Slow Positron Facility:SPF)における先端実験である全反射高速陽電子回折法(TRHEPD法,トレプト法)のデータ解析で,その有用性を実証した(ニュースリリース)。

コンピュータの高速化と情報ネットワークの発達によって,複雑な関係を内包する大量データも,高速かつ自動的に解析できるようになりつつある。中でも,測定データ解析への応用が注目されている。

近年開発された先端測定手法に,KEKのSPFで共同利用に供されているTRHEPD法がある。TRHEPD法では,量子ビームの一つである陽電子ビームを物質の表面すれすれに入射し,その回折波強度(回折パターンのスポット強度)を測定する。そのデータを解析して,数原子層の厚みしかないサブナノメートルスケールの極薄膜物質の原子配列(原子1つ1つの座標)を超高精度に決めることができる。

しかし,TRHEPD法は新しい測定手法であり,高速かつ自動的に解析する計算手法が整備されておらず,その超高精度をフルに活かすための,高速・自動解析手法が望まれていた。

研究では,計算・データ駆動科学系研究者と実験系研究者が協力した分野融合チームが,新しい計算手法の提案とTRHEPD法の測定データ解析プログラムの開発を行なった。TRHEPD法による回折パターンの各スポットの強度は,量子散乱理論によりコンピュータで計算することができる。

その具体的な計算手法は,TRHEPD法の提唱者によって確立された。それを利用して,実験で得られた回折スポット強度をできるだけ再現するような原子座標を探す計算方法(探索型逆問題解析)が解析の原理になる。

研究では新しい2段階解析方法を提案した。第1段階の最適化は,これまでPCを使った人的な試行錯誤で,正味10時間程度かかっていたが,自動最適化手法の導入により,8変数に
対する解析が同じPCで1分以内に終わるようになった。第2段階の感度解析は,スーパーコンピュータにを用いて1時間半程度で終わった。これは,データ解析作業がPCの2,000倍に高速処理されたと言えるという。

TRHEPD法は物質最表面や極薄膜物質の原子配列の超高精度解析法。この研究により,高速かつ自動的にデータ解析する計算手法が確立された。研究グループは今後,革新的化学反応触媒・超高速情報処理ナノデバイスなどの開発に必要な,原子配列解析の加速が期待されるとしている。

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