東京大学と理化学研究所は,マルチフェロイクスと呼ばれる磁性材料で旋光性複屈折と呼ばれる新しい光のねじれ現象が生じることを見出し,電圧と磁場によって偏光を自在に制御できることを実証した(ニュースリリース)。
物質中を進む光の偏光がねじれる旋光現象には,磁気光学ファラデー効果と自然旋光性がある。
一方,これらとは別の性質を持つ「旋光性複屈折」の存在が期待されていた。しかし,旋光性複屈折によってどのように偏光がねじれ,既知の旋光現象と何が異なるのかということすら検証されていなかった。
研究グループが研究で使用したGaを少量添加したCuFeO2というマルチフェロイクスでは,スピンが数ナノメートルという原子スケールで自発的に「らせん型」に配列することで,強誘電性とカイラリティが生じる。
この物質を透過した光の偏光状態を調べることで,既知の旋光性である自然旋光性と比較しつつ旋光性複屈折の検証をすることができる。また,らせん型に配列したスピンはテラヘルツ(~1012Hz)の振動数で運動することから,テラヘルツ帯の光に対して大きな旋光性が期待できる。
実際に物質を透過したテラヘルツ帯の偏光から共鳴的に増強された旋光を観測すると,1mmの厚みの試料を透過した光の旋光角は最大30度程度に達した。さらに解析することで,この旋光が旋光性複屈折と自然旋光性が共存することで生じていることがわかった。
一般的に異方性のある物質中を進む光の状態は,線複屈折性・線2色性と呼ばれる直線偏光の傾きに応じて光の進む速さや光吸収が変わる現象で理解できる。これに対し,旋光性複屈折では,結晶の異方性はそのままなのに,あたかも結晶が回転していると見なせる奇妙な旋光性が明らかになった。
また,この旋光性複屈折は非相反性と呼ばれる,対向して進む光の旋光角が反転するという性質も持つ。このような新奇な性質は,旋光性複屈折の起源である電気磁気結合に由来する。もう一つの旋光性である自然旋光性によっても,直線偏光が非相反性を持って回転する。
しかし,これは円2複屈折という,右回りと左回り円偏光の進む速度の差から生じる。このような旋光性の性質の違いから,旋光性複屈折は既知の旋光性と区別できることがわかった。
また,電圧によって強誘電分極とカイラリティの符号を制御し,更に磁場を印加することで旋光性複屈折と自然旋光性をそれぞれ独立に制御することにも成功した。この結果は,これまでよりも高い自由度で偏光を精密に制御できることを示す。
研究グループは,今回実証した光機能性は,新しい偏光制御素子の基本原理として期待されるとしている。