東京大学の研究グループは,真核生物がオルガネラを制御する分子機構を解析するため,新たな分子生物学ツールを開発した(ニュースリリース)。
真核生物の細胞には,生体膜で囲まれたオルガネラと呼ばれる複数種類の器官が存在する。
オルガネラは,それぞれ特定の種類のタンパク質や基質を含んでおり,これによってミトコンドリアにおける酸化的リン酸化や,葉緑体における光合成反応などに代表されるさまざまな生化学反応を実現可能にしている。
こうしたオルガネラの存在によって,真核生物は単一の細胞内区画しか持たないバクテリアと比べて極めて高度な細胞機能を実現し,ヒトや植物を含むさまざまな高次構造を備えた種が出現するに至った。
多数の種類のオルガネラを正しく機能させるためには,数多くの遺伝子が適切に働く必要がある。しかしながら,その分子的な仕組みの多くはいまだ明らかではない。研究が進んでいない理由として,オルガネラの機能に関わる遺伝子の働きを阻害すると細胞自体が死んでしまうことが多く,機能の解析が難しいことがある。
さらに,可視光でも見ることが出来る葉緑体を除き,多くのオルガネラはそのままでは見ることが出来ない。そのため,特定のオルガネラだけを可視化する組織染色を行なわない限りオルガネラに異常があることを検出することができなかった。
今回研究グループは,これらの問題を解決するため,1つの細胞に細胞核,ミトコンドリア,葉緑体,ペルオキシソームといったオルガネラが1つずつしかない極めて単純な真核生物であるシゾンを用いて,オルガネラの機能解析を迅速に行なうことを可能にする新たな分子生物学ツールの開発を目指した。
その結果,4種類のオルガネラを異なる色の蛍光タンパク質で可視化(細胞核(Venus,黄緑色),ミトコンドリア(mScarlet,橙色),ペルオキシソーム(mCerulean3,青色),葉緑体(クロロフィル自家蛍光,赤色))し,同時に目標とする遺伝子の配列に自由に改変することができる新手法“シゾン・カッター”を確立することに成功した。
この技術によって,いまだ明らかになっていないオルガネラを制御する真の分子メカニズムを解明する基盤を構築することが出来た。研究グループは今後,シゾン・カッターを活用することによって,オルガネラの創成原理の解明や,真核生物誕生のしくみの理解が進むことが期待されるとしている。