大阪府立大学,高輝度光科学研究センター,東京大学は,原料の分子の形状と結合の相手となる金属イオンとの組み合わせ,水面での作製条件を工夫することにより,多孔質かつ電気を流すナノシートを作製することに成功した(ニュースリリース)。
グラフェンや金属酸化物などによるナノシートのほとんどは,マクロスケール物質を剥離することにより得られる。
しかし,マクロ物質の合成にはエネルギーが必要で,剥離も多くのプロセスを必要し,プロセスによってはナノシートが破壊される,再凝集が起きるなどの課題があった。そこで研究グループは,水面で油膜を形成する現象に着目した。
研究では,分子,2,3,6,7,10,11-ヘキサアミノトリフェニレン(HATP)をニッケルイオンが含まれる水面に散布したところ水面に広がり,ニッケルイオンを介して次々と連結して,六角形の穴が規則正しくあいたハニカム構造を形成した。
さらに,水面に対して垂直な方向にも分子が密に積層した立体ナノ構造が構築された。また,電気のもととなる電荷が新たに生じ,π共役系や分子が密に積層した構造は電荷の通り道となり,ナノシートに電気が流れるようになった。
立体ナノ構造を観察したところ,約2nmの正六角形の穴が規則的にあいたハニカム構造が観測され,水面での高度な立体ナノ構造の形成を実証した。このナノシートの厚みは約10nmだった。
ナノシートの電気伝導度を評価した結果,同種の分子からなるナノシート(100nm以下の厚み)の中で最も高い電気伝導度の0.6 S/cmを有することがわかった。また,光透過性を評価した結果,可視光領域での光透過度は99%と,極めて高い光透過能を有することがわかった。
多くの導電体は伝導電子の特性上黒に近い色を有し,光透過性は低いが,今回開発したナノシートは,導電性でありながら高い光透過能を達成した。このような導電材料は,ディスプレーや太陽電池の電極として有用となる。
X線回折法による構造解析により,高い電気伝導の理由を調べたところ,想定していたハニカム構造と積層構造からなる立体ナノ構造が証明され,基板に転写された後も,その構造が保持されることが分かった。立体ナノ構造は,ナノシート中で一定方向に向きを揃えていることも確認できた。
今回得られたナノシートは,ハニカム構造と積層構造が向きを揃えて適切に接続されているため,電荷の移動がスムースになり,高い電気伝導につながったと研究グループはみている。
多孔性と導電性を兼ね備えたナノシートは,センサや電池の高機能化,小型化を加速することが期待されるとしている。