京都産業大学の研究グループは,標準的な宇宙論において仮定されている「一様等方モデル」の妥当性に関する理論的基礎を確立した(ニュースリリース)。
宇宙はビッグバンで生まれ,インフレーションとともに膨らみそのまま膨らみ続けている(宇宙膨張)。
この宇宙膨張が,過去とくらべて現在どんどん加速していることが観測からわかってきた。こうした宇宙全体の振る舞いを理論的に取り扱うため,標準的な宇宙論の理論モデルは、 宇宙全体がどこでも同じという一様等方の仮定をしている。
研究では,時空を表現するアインシュタイン方程式を従来とは異なる方法で平均化し,一様等方な宇宙モデルが得られることを示した。
宇宙論の研究分野では,ダークエネルギーと呼ばれる未知のエネルギーの存在などさまざまな仮説が提唱され活発な研究が続けられているが,すべての情報をインプットしてコンピュータで計算するには膨大すぎるため,まずは大胆な仮定の下に宇宙全体の方程式を立てる。
標準的な宇宙論の理論モデルは,宇宙全体がどこでも同じという一様等方の仮定のもとに構築されているが,現実の宇宙は様々なスケールで物質の濃度に疎密,つまり物質分布の非一様性が存在しており,「一様等方宇宙モデル」は非一様な時空を何らかの意味で平均化して得られるべきもの。
そのため,従来平均化によって一様等方宇宙モデルを導くには,ある特定の座標系を仮定されていたため,その結果が仮定した座標に依存するかどうかが問題だった。
研究では「時空の3+1分解」と呼ばれる方法を用いて従来とは異なる座標系においてアインシュタイン方程式を平均化しても,従来と同じ一様等方宇宙モデルが導かれることを示した。この結果によって現在宇宙論でハッブル定数問題として知られる大域的な膨張則と局所的膨張則の違いを,時空の非一様性から説明する理論的基礎を確立した。
ハッブル定数は,遠方の銀河までの距離と後退速度の間のある比例関係における比例定数であり,現在の宇宙の膨張率を示す,宇宙論の基本パラメータ。「ハッブル定数問題」は,このハッブル定数が,宇宙マイクロ波背景放射(CMB)の観測から得られる(大域的な)値と,超新星の観測から得られる(局所的な)値とにある10%程度の不一致のことで,現在の宇宙論における重要問題のひとつとなっている。
今回,宇宙の加速膨張の理解に新たな光をあてたことで,研究グループは今後,ダークエネルギーの存在も含めて,宇宙論研究に新たな展開や大きな進展が期待されるとしている。