岡山大学の研究グループは,オオムギの穂が白いalm1突然変異体は,葉緑体の発達を制御するGolden2-like2(GLK2)転写因子をコードする遺伝子の異常によることを解明した(ニュースリリース)。
オオムギには穂が葉緑素を欠き白くなるalm1突然変異体があり,核に位置する劣性の1遺伝子支配で3H染色体に座乗することが,60年以上前に報告されている。
しかし,オオムギはイネの約13倍の51億塩基対と巨大なゲノムを持ち,遺伝子を含まない繰り返し配列が80%以上を占めるため,ゲノム解読の精度が十分ではない。そのためオオムギで形質の原因遺伝子を探索することは,干し草の山から1本の針を探すような長い道のりが必要で,alm1遺伝子の分子実体は明らかになっていなかった。
今回研究グループは,alm1遺伝子の3H染色体上の詳細な位置をDNAマーカーにより決定し,類縁関係にあるイネの高精度ゲノム配列情報を活用して,有力な原因遺伝子を特定した。
オオムギでは人工的に突然変異を誘発する研究が1920年代後半から行なわれ,突然変異体のコレクションが充実している。そこで国内外の種子銀行(ジーンバンク)から穂の白い突然変異体を10種類入手し,これらの遺伝子配列を詳細に解析して,穂の白いオオムギ突然変異体alm1が葉緑体の発達を制御するGLK2転写因子遺伝子の異常によることを解明した。
ビール大麦品種ミサトゴールデンから誘発されたalm1突然変異体を正常品種とともに,葉と穂での光合成の測定に使用した。その結果,穂が白いミサトゴールデンalm1変異体は,正常型に比べ,葉での光合成には差はなかったものの,穂での光合成は34%低下していたという。
さらに,ミサトゴールデンalm1変異体は種子重が15.8%低下していたことから,穂での光合成が種子の充実に重要であることが明らかになった。
研究グループは,HvGLK2転写因子を操作してオオムギの穂の光合成能力を高めることで,収量の増加や品質向上効果が期待され,オオムギでの成果は他作物の収穫器官(果実)の光合成を強化し収量を高める品種改良への応用が期待されるとする。また,CO2削減にも役立つとしている。