凸版印刷と,量子コンピュータ向けのソフトウエア開発キットを提供するblueqatは,光量子の取り扱いや量子情報の知見を活かして,光量子方式における光量子計算の新規計算手法を考案し,従来の方式と比較して,計算時間を27分の1に短縮した(ニュースリリース)。
量子コンピューターの実用化に向けて,様々な計算手法,ネットワーク技術などの開発が行なわれている。特に,ハードウエアの開発は黎明期であり,計算処理能力向上に向け,様々な方式が検討されている。
なかでも,超電導方式は,開発が最も進んでいるが,動作環境を絶対零度(-273℃)付近にする必要があり,冷却するために莫大なエネルギーを消費することや大きな冷却装置を必要とし,装置の小型化も難しいことが問題となっている。
一方,光量子方式は常温で動作するため消費エネルギーが小さく,装置の小型化が可能であることから,商用利用への期待が高まっているが,計算手法の研究が十分にされてなく,その確立が期待されている。
研究グループは,量子計算のシミュレーション手法として,テンソルネットワーク(量子系を効率的に計算する手法の一種)を用いて,光量子回路を構築,光量子計算を実施,計算時間を短縮させる手法を確立した。
この新手法では,連続量(CV)量子計算(光の位相と振幅といった,連続的に変化する値を用いた光量子計算)に対して,Matrix Product States(MPS)(多数の行列の積からなるテンソルネットワーク構造の一種)で表現されるテンソルネットワーク構造で特異値分解を適用したことにより,計算時間を短縮できる結果を得た。従来の手法と比較したところ,その新規計算手法の有効性を確認することができたという。
今回,凸版印刷は光連続量のモードを解析する手法を考案した。同社は光量子方式の量子コンピューティングに関する研究開発を推進している。今後,この手法をより発展させて,光量子回路やそれを用いた量子通信などに適用していく。
また,blueqatは,光量子計算にテンソルネットワークを組み込む手法を発案した。この計算手法をより発展させ,ミドルウエアの開発などに適用していく。
研究グループは今後,他の計算手法との比較やその有効性などの効果検証を行ない,量子コンピューティング事業の産業応用を目指す。また,今回の研究に関する論文がIEEEの国際会議「International Conference on Quantum Computing and Engineering 」のポスターセッションに採択され,10月18日に発表を行なったという。