北海道大学の研究グループは,ワイルコーンの傾きを考慮したモデルハミルトニアンを用いることでカイラルアノマリー公式を拡張することに成功した(ニュースリリース)。
ワイル半金属はワイルコーンと呼ばれる線形のエネルギー分散を持つ。このワイルコーンの傾きの強度に応じてワイル半金属はType-IとType-IIの2種類に分類される。
また,ワイルコーン周辺の電子はカイラリティを持つが,通常では電荷が保存されるように,ワイル半金属内部で保存されている。しかしながら外部から磁場と電場の両方を印加することで,保存しなくなるカイラルアノマリーが生じ,それに起因してType-Iワイル半金属は負の縦磁気抵抗効果を示すことがよく知られている。さらに近年,Type-IIワイル半金属が負のみならず正の縦磁気抵抗効果を示すことが明らかになった。
Type-Iワイル半金属における負の縦磁気抵抗効果発現のメカニズムは,ワイルコーンの傾きを考慮していない従来のカイラルアノマリー公式で説明されてきた。しかし,Type-IIワイル半金属が示す正と負の縦磁気抵抗効果は,Type-IIワイル半金属におけるワイルコーンが傾いているため,従来の公式を用いて説明することは不可能だった。
この問題を解決するため,研究グループは,二つのワイルコーンを持ち,その傾きを考慮したモデルハミルトニアンを用いることで従来のカイラルアノマリー公式の拡張に取り組んだ。
具体的には,二つのワイルコーンが同じ方向に傾く場合と互いに向き合う,または互いに反るように傾く場合の2通りを考え,それぞれの場合に対応するカイラルアノマリー公式の導出に成功した。
今回の発見はワイル半金属におけるワイルコーンの傾く方向や傾きの強度から正と負のどちらの縦磁気抵抗効果を示すか見積もることができることを意味しており,研究グループは将来,ワイル半金属を磁気センサやスイッチングデバイスへ応用する際の手助けとなることが期待されるとしている。