東北大学,台湾国家同歩輻射研究中心(NSRRC),中国清華大学は,2セレン化タンタル(TaSe2)および2セレン化ニオブ(NbSe2)原子層薄膜を作製し,その電子構造を調べた結果,モット絶縁体状態が様々な外的刺激(熱・光照射・キャリア注入)を受けても極めて強固に保たれていることを明らかにした(ニュースリリース)。
原子層物質に現れる新機能の発現とその機構解明に関する研究が精力的に進められている。なかでも遷移金属原子Mとカルコゲン原子X(X=S,Se,Te)が積層した構造を持つ遷移金属ダイカルコゲナイド(MX2)が注目されている。
東北大学の研究グループは,分子線エピタキシー法によって,MX2の一種である,タンタル(Ta)またはニオブ(Nb)がセレン(Se)と結合して層状に積み重なった原子層 TaSe2と原子層NbSe2の作製に成功している。
さらに,これらの物質がモット絶縁体であることを明らかにし3次元物質で報告されてきたモット絶縁体相が,2次元でも実現できることを示した。一方,バルクTaS2のモット絶縁体相は熱や光などの外的刺激によって壊れて容易に金属化してしまうことが知られており,モット絶縁体を活用した室温で動作する電子デバイスの開発に向けての障害となっていた。
今回研究グループは,原子層TaSe2および原子層NbSe2の電子構造を,放射光からの紫外光のスポットサイズを10µm程度に絞って精密観測できるマイクロARPES,時間分解ARPES,STMなど先端電子分光法を駆使して精密に観測した。
その結果,ダビデの星を伴うこれらの物質の絶縁体状態が,少なくとも180℃という高温まで持続することを突き止めた。また,高輝度レーザーによって光刺激を与えたり,表面へのアルカリ金属吸着によって電子キャリアを注入したりしても,この絶縁体状態が保持されることを見出した。
このことから,バルク物質とは異なり,原子層のTaSe2やNbSe2では,外からの刺激に対して極めて強固なモット絶縁体状態が実現していると結論した。さらに,モット絶縁体状態を強固に保つためには,ダビデの星を形成する異なる層間の電子の飛び移りを抑制するのが重要であることを明らかにした。
研究グループは,この研究を発展させることで,原子層高温超伝導などの物性の創発が期待できるだけでなく,室温で高速にON/OFF動作ができる原子層モットトランジスタなど次世代電子デバイス材料の開発にも期待する。
また,研究で適用したマイクロARPESによって,トポロジカル物質における局所電子状態解明なども進展するとしている。