浜松ホトニクスは,中赤外光に感度を持つ光検出器「量子カスケード光検出器(Quantum Cascade Photodetector:QCD)P16309-01」の製品化に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
現在,中赤外光を利用した高速のレーザー計測技術への期待が高まっている。遮断周波数の高い中赤外光検出器はすでに市販されているが,大型の冷凍機で冷却する必要があることから,同社は室温動作かつ遮断周波数の高いQCDの製品化に取り組んできた。
同社は,発光層に量子構造を用いた量子カスケードレーザー(QCL)を開発,製造,販売している。QCDは,半導体の薄膜を積層させることで生じる量子効果を利用することで高い遮断周波数を実現できる一方,ほかの中赤外光検出器と比べ感度が低いという課題があった。
今回,量子構造を工夫し結晶成長技術,半導体プロセス技術を応用することで,QCD内部の受光素子に生じる暗電流を低減するとともに,入射した中赤外光により発生する電気信号の量を増やし感度を向上させることに成功した。
また,通常の光半導体素子では受光素子とパッケージ電極を金属のワイヤーで接続するが,今回,メッキで接続するエアブリッジ配線を採用することで,インダクタンスとキャパシタンスを大幅に低減している。これにより,QCDの製品化に世界で初めて成功し,実用化されている室温動作の中赤外光検出器では世界最高となる遮断周波数20GHzを実現した。
この製品は,室温で動作するため大型の冷凍機が不要で,動作に電圧をかける必要がないことから外部電源も不要。これにより,体積8cm3と小型パッケージを実現することで,さまざまな実験装置や分析機器などに組み込むことができる。また,集光レンズを内蔵することで光学調整をしやすくした。
この製品を分析機器の光検出器として用いることで,燃焼効率の研究における燃焼や爆発など,さまざまな化学反応をps単位で計測できることから,従来は不可能だった極めて短い時間間隔での分析が可能となるという。また,この製品が感度を持つ波長4.6μmの中赤外光は大気に吸収されにくいことから,高速大容量の空間通信や長距離向けLiDARなどへの応用も見込まれるとする。
同社は今後,さまざまな波長の中赤外光に対応した製品の開発を進めていく。また,同社は受光と発光の両素子を生産しており,お互いの性能を最大限に引き出すことができることから,この製品とQCLなどのレーザ製品をセットで提案することで新たな市場を開拓するとしている。