東北大学と米ペンシルバニア州立大学は,「静穏な」超巨大ブラックホール周囲で超高温に加熱された電子からの放射が宇宙軟ガンマ線の起源であるという説を新たに提唱した(ニュースリリース)。
宇宙は宇宙線と呼ばれるほぼ光速で飛び交う高エネルギーの荷電粒子で満たされている。
また,高エネルギーの中性粒子であるガンマ線やニュートリノも宇宙を満たしており,宇宙ガンマ線背景放射や宇宙ニュートリノ背景放射として観測されている。しかし,それら高エネルギー粒子の起源天体や生成機構はまだ解明されていない。
宇宙ガンマ線背景放射のガンマ線のエネルギーは10-3GeV の軟ガンマ線帯域から1GeVを超える高エネルギーガンマ線帯域まで幅広く検出されている。宇宙ニュートリノ背景放射も104GeVから107GeVまでの広いエネルギー帯域で検出されている。
我々の住む天の川銀河を含め,ほぼ全ての銀河の中心には超巨大ブラックホールが存在すると考えられている。銀河の中にあるガスは,高い位置から水を流して電力を得る水力発電のように,超巨大ブラックホールの重力に引かれてブラックホールへと落ちていき,膨大な重力エネルギーを解放する。
超巨大ブラックホールは重力が地球よりも桁違いに大きいため,落下したガスは加熱されて超高温のプラズマとなり,様々な波長の電磁波を放出する活動銀河核として観測される。
研究グループは,ガスの落下量が比較的少ない静穏なブラックホールに着目。このような天体は,暗い活動銀河核(低光度活動銀河核)として観測されている。これまでに得られているX線のデータを用いて低光度活動銀河核のブラックホール周囲のプラズマの状態を推定した結果,電子は100億度まで加熱され,ガンマ線を効率的に放射することを理論的に示した。
これまでに見積もられた低光度活動銀河核の数を考慮すると,それらが放射するガンマ線量は宇宙ガンマ線背景放射のデータを自然に説明できることがわかった。また,そこでは高エネルギーニュートリノも効率的に生成され,そこから放射されるガンマ線とニュートリノが地球での観測データを自然に再現できることも示した。
これまでの宇宙ガンマ線や天体ニュートリノの起源の研究では,明るい活動銀河核やブラックホールから噴出される相対論的ジェットなど,他の波長の電磁波で非常に明るく輝く天体が議論されてきた。
この研究ではそれらの波長帯域で比較的暗い天体に着目した点が独創的であり,個々の天体は暗くても数が多いために宇宙を満たす高エネルギー粒子の起源として十分に寄与できることを示した点が画期的だとしている。