大阪大学とオーストリアJoanneum研究所は,光照射によるフレキシブル有機トランジスタ集積回路特性の制御技術の開発に成功した(ニュースリリース)。
フレキシブル電子デバイスは,無意識下のウェアラブル生体計測を実現するためのデバイス技術として,遠隔医療・デジタルヘルスケアで実現する持続的な社会の構築を目指して研究開発が行なわれている。
研究グループでは,本質的に高い機械的柔軟性を有する有機電子材料を活用したフレキシブル有機トランジスタ回路のデバイスへの応用を進めてきた。しかし,生体信号計測を実現するセンサデバイスは,スイッチング回路,信号処理回路など,複数の電子回路から構築されるため,目的のデバイス特性を得るためには個別のトランジスタの電気特性制御技術の開発が求められていた。
今回,研究グループは紫外光を照射することによって分子構造が変化する高分子材料を有機トランジスタの絶縁層として用いることにより,集積回路の電気特性を自在に制御する技術を構築した。
この技術では,光の照射量を調整することにより,有機トランジスタのしきい値電圧を-1.5Vから+0.2Vの範囲で任意に制御できる。また,光を用いた技術であるため,特性制御における二次元空間分解能にも優れており,今回の研究ではおよそ18µmの精度で分子構造変化を誘起できることを確認したという。
今後,光照射手法の工夫によって空間分解能の改善が期待でき,より集積度の高い小型の回路製造にも応用可能な技術だとする。これらの特徴を活用することにより,同一の構造,同一の材料を用いた有機トランジスタの集積回路において,任意の光照射領域のトランジスタ特性のみを自在に変化させることが可能となる。
今回の研究では実証例として,有機トランジスタを用いたインバーター回路,リングオシレーター回路を試作し,光照射によって回路特性を自在に調整可能であることを示した。
研究グループは今回,光照射による簡単な工程と,従来技術と比べて少ない材料使用によってフレキシブル有機電子回路の特性を自在に制御可能であることが示されたとする。
これにより,フレキシブル電子回路の更なる高性能化が実現し,ウェアラブル生体計測を例として,実空間のあらゆる対象物をセンシングする技術として活用されることが期待されるとしている。