理研ら,レーザーで荷電粒子を1分で20ミリKに冷却

理化学研究所(理研),独マインツ大学,独マックスプランク研究所は,陽子と反陽子(陽子の反粒子)などの荷電粒子を1分で20ミリKまで冷却できる冷却法を開発した(ニュースリリース)。

陽子と反陽子(陽子の反粒子)の性質を高精度で比較する実験の精度を格段に高くするためには,陽子や反陽子を絶対零度(-273.15℃)付近の極低温まで冷却することが必須となる。今回,研究グループは荷電粒子をこれまでにない速さで陽子や反陽子を冷却できる手法の開発に取り組んだ。

陽子や反陽子の性質を超高精度で調べるには,①電荷符号の異なる陽子と反陽子のいずれにも適用可能,②極低温まで冷却可能,③冷却に要する時間が短い,という通常なら共存しがたい三つの条件を同時に満たす冷却法が必要。そのため,研究グループは次のような従来とは質的に異なる冷却系を考案し,それを実現した。

① ベリリウムイオン(Be+)をペニングトラップに捕捉し,これをレーザー冷却する。
② 巨視的に離れた位置(9cm)にあるペニングトラップに,陽子(反陽子)1個を捕捉する。
③ ①と②のペニングトラップを超伝導共鳴回路でつなぐことで、陽子(反陽子)とレーザー冷却されたBe+を相互作用させ,陽子(反陽子)を共同冷却する。

この冷却系の大きな特徴は,陽子(反陽子)とレーザー冷却されたBe+の二つの粒子系を,9cmという巨視的に離して置いても十分強く相互作用させることができ,結果的に陽子(反陽子)を効率的に冷却できることだとする。

9cmも離れていれば,物質であるBe+と反物質である反陽子が空間的に混ざって対消滅することはないという。元々この冷却法のアイデアは,1990年に提案されたものだが,その困難さからアイデア止まりで,誰も実現できずにいた。

これまで,理研らは選択的抵抗冷却法で極低温の陽子や反陽子を生成していたが,これは極めて時間のかかる作業で,100ミリKまで冷却するのに約10時間も要していた。今回開発した冷却法では,陽子や反陽子を20ミリK程度まで1分ほど(従来のおよそ1,000分の1)で冷却できる。これにより,測定回数を桁違いに増やすことができ,実験精度が飛躍的に向上する。

この成果により陽子と反陽子の違いをこれまでよりもさらに高い精度で観測することが可能となり,ひいては,この宇宙には物質しか残されていないという大きな謎の解明につながる。また,電子や陽電子など他の粒子の超高精度実験,さらには,反物質(反水素)と物質(地球)の重力相互作用の研究などにも適用可能だとしている。

その他関連ニュース

  • 阪大,原子核の中で陽子と中性子が渦まく運動を発見 2024年12月16日
  • 東大ら,レーザー光による原子の急速な冷却を実現 2024年09月12日
  • NAOJら,予測を超えた多くの衛星銀河をHSCで発見 2024年07月03日
  • 東大,光格子時計の高精度化に必須な連続原子源開発 2024年03月07日
  • すばる望遠鏡,銀河団を結ぶダークマターの糸を検出 2024年02月08日
  • 東大ら,ダークマターの典型的な重さを初めて測定 2023年09月12日
  • 近畿大ら,重力レンズでダークマターのゆらぎ検出 2023年09月11日
  • 理研,陽子内のグルーオンのスピンの向きを決定 2023年06月22日