名古屋工業大学の研究グループは,フィルム内で局所的に弾性率(硬さ)が可変となる樹脂調製に成功した(ニュースリリース)。
エラストマーの物性を決定する要素の1つに架橋密度がある。一般に,架橋密度が大きい試料は硬く伸びにくく,架橋密度が小さい試料は柔らかく伸びやすい材料となる。
従来のエラストマーの多くは,単一種の架橋により網目構造を形成しており,一つの分子設計に対して特有の単一力学特性を示す材料しか調製できない。そのため,樹脂は”均質であるもの”という概念が盲目的に浸透している。
一方で,植物や生物などでは,様々な硬さを有する構成物が組み合わさった構造をとるものがほとんどであり,その複雑な組み合わせにより本能的に機能化されている(例えば昆虫の羽の翅脈は,亀裂の伝播を防ぐ役割をしていると言われている)。合成樹脂に対しては,その”不均質性”を組み入れた設計とその有用性はこれまであまり注目されていなかった。
研究グループは,構成ポリマーとして,熱架橋性官能基と光架橋性官能基を導入したポリマーを設計した。このポリマーを架橋剤と熱反応させると,まず熱架橋性官能基のみが反応し,自己支持性の高いエラストマーフィルムが得られる。
この段階では光架橋性官能基は未反応だが,このフィルムに紫外光照射を施すと,光架橋性官能基が反応し,架橋密度およびガラス転移温度が変化する。この分子設計では,紫外光照射前後の弾性率は0.1MPaから66MPaまで変化し,その差は100倍以上だった。
紫外光照射を局所的に行なうことで,局所的に弾性率の異なるフィルムが得られることから,研究では,スリット数・スリット面積が調節されたフォトマスクを使用し,高弾性部位と低弾性部位をフィルム面内にパターニングした。
そのパターニング様式(パターニングの方向,パターニングのピッチ等)により,フィルムの伸長特性・破断特性を制御することが可能となる。変形方向に対して水平なパターニングでは,高変形領域と非変形領域を自由にデザインでき,垂直パターニングでは,変形下での亀裂の伝播が著しく抑制され,難破壊材料が得られることを発見した。
このコンセプトを展開すれば,目的にあった力学物性を示す樹脂を,合成の段階から逐一行う必要がなく,試薬消費やエネルギー消費の削減にも貢献できる。研究グループは今後,より複雑なパターニングを行なっていくとしている。