東北大学の研究グループは,有機電子型強誘電体において,アト秒スケール(5G周波数より十万倍以上高速)の電子操作にも期待できる,物質中のナノ分極がフェムト秒光パルスによって増強する現象を発見した。(ニュースリリース)。
強誘電体は電気の偏り(分極)の向きが整列(秩序化)することを利用しており,分極は原子やイオンの変位などによって生じている。
一方,電子強誘電体では,電子雲の変形によって分極が形成されるので,これまでより1000倍も速い制御が可能となることが期待されている。しかし,光で分極を消去することはできるものの,分極を高速に増強することが困難だった。
今回,有機分子結晶である(TMTTF)2Xを用いた。この物質は,世界で初めて電子型強誘電性が観測されたことでも知られる。研究では,テラヘルツ電磁波を利用することで,ナノ分極を観測する技術を開拓した。
強誘電体においては,巨視的(この物質では100μm)な長さのスケールで一方向を向いた分極が存在し,それをテラヘルツ波発生などの光学的な手法によって確認することができる。しかしこの方法は,光の波長である1μm以上の領域での場合のみ有効であり,ナノ分極の測定方法は確立されていなかった。
そこで研究では,テラヘルツ波がナノ分極に吸収される性質を利用した。ナノ分極(吸収強度)と巨視的分極(テラヘルツ波発生強度)の温度依存性を見ると,巨視的分極は,絶対温度102K(=-175℃,強誘電転移温度)以下の温度で生じる。一方でナノ分極は,それより50K以上も高温から成長していく。
光照射した瞬間(十兆分の一秒)における吸収変化を見たところ,22Kでは,ナノ分極の吸収ピークがマイナスに変化(減少)しており,ナノ分極が破壊された。これは他の電子型強誘電体でも見られる光誘起相転移という現象。ところが50Kでは逆に,ピークはプラスに変化しており,ナノ分極が光で増強されることが明らかになった。
いずれの温度でも巨視的分極の信号は減少していることから,巨視的には分極が破壊されているように見えるが,これは向きの異なるナノ分極が相殺していることによると考えられるという。
今回,多くの電子を一斉に動かさなくてはいけない巨視的分極の変化ではなく,あえてナノ分極に注目することによって,「ナノ分極の増強が瞬時に起こる」という新奇な現象を発見した。
研究所グループは今後,ナノデバイスの電子の制御に応用することで,フェムト秒-アト秒領域(ペタヘルツ領域)のエレクトロニクスの動作原理に繋がる可能性があるとしている。