東大ら,光で剥離・解体可能なエラストマーを開発

東京大学,高エネルギー加速器研究機構,東京工業大学,米スタンフォード大学は,光刺激を作用させることで粘弾性を遠隔操作できる光解体・再生式網目状物質(PRN)を開発した(ニュースリリース)。

網目状物質は,粘接着剤,シーラント,タイヤ,3Dプリンティング材料等,生活に浸透しており,有機溶媒を必要とせず,解体・再利用可能なシステムを開発することが持続可能な社会を創る観点から切望されている。

従来,解体・再利用に利用されてきた外部刺激の多くは熱だったが,周囲に伝播するため局所的に作用させることが難しい。そこで研究グループでは,これまでエラストマー(合成ゴム)として広く利用されているポリシロキサン(シリコーン材料)の粘弾性を光刺激で変化させる方法を開発してきた。

しかし従来研究では,柔軟なシリコーンゴム程度の弾性率をもつ光応答性のエラストマーを合成することが難しく,その解決には高分子鎖の緻密な制御(分子量や分岐の制御)を必要としていた。

研究グループは,有機溶媒への溶解性に乏しい多官能性シラノールが,開環重合触媒として知られる尿素誘導体によって可溶化されることを見出した。この発見を契機に,尿素誘導体存在下,多官能性シラノールを開始剤とする環状シロキサンの開環重合により分子量の揃った分岐状ポリシロキサンを合成することに成功し,最終的に光解体・再生式網目状物質(PRN)の開発を達成した。

このPRNは,シリコーンゴムと同じような弾性的な性質をもつエラストマーであり,光刺激に対して良好な応答性を示すという。光刺激に伴う力学物性の変化を調べたところ,貯蔵弾性率(G’)が65kPaから25kPa程度に低下した。

また,光の照射をやめるとG’が65kPa程度に戻り,この変化を何度も繰り返せることが分かった。この変化は,シリコーンゴムが数倍柔らかくなり,また硬くなる変化を何度も繰り返していることに相当するという。

続いて研究グループは,PRNを「光で解体・再利用できるフォトメルト粘着剤」および「光で切れるエラストマー」として応用することに成功した。さらに,これらの検討を通じてPRNは,市販のレーザーポインターにも鋭敏に応答することを見出した。

これにより,光が当たった部分のみ何度も大幅な粘弾性変化を繰り返す光応答性シリコーンゴムの開発が可能になった。安価で入手可能なレーザーポインターで照らすだけで離れたところから剥離・解体できる。研究所グループは実用化を目指した種々の研究開発を進めており,今後は用途ごとの物性のチューニングを進めるとしている。

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