理化学研究所(理研),名古屋大学,大阪大学は,大型放射光施設「SPring-8」において,「走査型X線顕微鏡」用の新しい高精度スキャン技術「X線ナノプローブスキャナー」を開発した(ニュースリリース)。
「走査型X線顕微鏡」ではX線微小集光技術の開発競争が進んだことで,利用可能なX線プローブのサイズ,すなわち空間分解能が1~10nmレベルへと劇的に縮小された。
これに伴い,走査型X線顕微鏡のスキャン装置に一層の精度向上が求められているが,1nm(原子数個分に相当)に迫るスキャン精度の実現は難しく,また大型化・複雑化が避けられなくなるために試料環境が制限され,走査型X線顕微鏡の汎用性や実用性が損なわれることが問題となっていた。
研究グループは,従来までのX線を曲げてスキャンすることが難しいという常識を打ち破り,X線プリズムと反射型X線レンズの組み合わせによる「X線ナノプローブスキャナー」を世界で初めて開発した。
この技術では,X線プリズムによりX線の進行方向を1,000分の1°レベルの超微小角度で偏向させ,その後,反射型X線レンズによりX線を50nmまで細く集光し,試料に照射する。
X線は直進性が高くなかなか曲がらないため,X線プリズムでも微小な角度しか曲げることができないが,その反面,わずかな曲げ角を高精度に制御できる。この特性を生かすことで,これまで制御が難しかった1nm精度のスキャンが可能になるという。
集光に用いる反射型X線レンズは,研究グループが長い年月をかけて研究開発してきたもので,全反射現象を利用した4回反射型の超高精度ミラーで,長さ数十~数百mmのミラー形状が約1nmの作製誤差で作り込まれている。非常に精密に作製されたミラー表面は,1Åの短い波長を持つX線をほぼ理想的に反射・集光させることができるという。
実際に,このX線ナノプローブスキャナーを使って,S試料を動かさずにX線プローブをスキャンし,50nm線幅を解像する走査型X線顕微鏡像の取得に成功した。また,この手法によって,0.1~2nmのスキャン精度が十分に実現可能であることを示した。これは従来の10~20倍の精度だという。
研究所グループは,このX線ナノプローブスキャナーを火付け役として,今後X線光学技術の新展開が開拓されることが望まれるとしている。