東北大学の研究グループは,湿式塗布したZnO粒子群に,高結晶性単層カーボンナノチューブ(hc-SWCNTs)製平面状電界電子放出源からのエネルギーが揃った電子線を照射することで,加熱することなく大面積で均一な電気的・光学的に世界最高水準のZnO薄膜を得ることに成功した(ニュースリリース)。
IoT化が進むと可搬性に富むウェアラブル型デバイスが必要になる。そこで求められる透光性導電性回路にはインジウム・錫酸化物(ITO)が多用されているが,インジウム資源枯渇の懸念から酸化亜鉛(ZnO)にシフトしていく傾向にある。
従来のZnO薄膜形成プロセスは,スパッタ,パルスレーザー蒸着,プラズマ蒸着,化学気相成長,湿式塗布などが試みられているが,高い導電性と透光性に富む大面積ZnO薄膜を低温で安価に形成する方法は確立されていなかった。
研究グループは,非加熱で大面積薄膜形成が可能な手法の探索とZnOの導電性と透光性を改良する物理的因子の把握を主に行なった。前者では,電子線励起反応場が非加熱形成に有効で,かつ高結晶性カーボンナノチューブ(hc-SWCNTs)からなる平面状電界電子放出源からのエネルギーが揃った電子線照射が大面積のZnO薄膜形成に効果的だった。
研究で用いた平面状電界電子放出源の配置により,hc-SWCNTsからは最大15mm角の面積に3000nA/mm2の電子線照射が可能になったという。ZnO粒子は湿式法で塗布して平面状電界電子線放出源からの電子線照射を室温で行ない,薄膜一体化した。
後者では,ZnOの透光性向上や電気的特性にはC軸をそろえて結晶粒界での散乱を抑え,イオン化不純物散乱を低減することが効果的であることがわかった。C軸をそろえるには,電子線エネルギーを90-120keVと最適化することが効果的であることを見出し,その結果,光の透過率は波長550nmで78%,PET樹脂に比較して90%という高い透光性を達成した。また電気的特性は最大キャリア密度1.8×1018/cm3,ホール易動度158.6cm2/Vs,電気抵抗8.6×10-4Ωcmという世界最高水準を達成した。
研究グループは,この成果は新しいボトムアップテクノロジーを提供するだけでなく,透明電極,太陽電池,記憶デバイス,バイオセンサーなどのデバイスに適用し,軽量安価なウェアラブルデバイスなどIoT社会の実現に資することが期待されるとしている。