愛媛大学と愛媛県農林水産研究所は,真珠内部での光の透過,反射,散乱を考慮した新しい光学モデルを構築し,真珠の輝きを生み出す干渉色を光学計算により再現する技術を新たに開発した(ニュースリリース)。
金,ダイヤ,サファイア,ルビーなどの宝石のほとんどは地中の鉱物だが,真珠は海の中の貝によって生み出され,人間が作ることができる唯一の宝石でもある。真珠は日本が誇る輸出水産物であり,日本の生産額は160億円を超える(令和元年度)。また,愛媛県の生産額は72億円で日本一と非常に重要な水産物となっている。
真珠の価値は,大きさ,光沢,干渉色などで決まるが,真珠の美しい干渉色は,厚さ数百nmのアラゴナイト結晶層が創り出す構造色によるもの。真珠の光学に関する研究は古く,著名な光学研究者であるブリュースターが1833年に執筆した本の中にも干渉色についての記述があるが,現在でも完全な原理の解明には至っていない。
これまでにもブラッグ反射に基づいた光学モデルなどがあったが,今回研究グループは,真珠内部の透過光,反射光,散乱光を考慮した新しい光学モデルを構築した。これに基づくと,従来知られているブラッグ反射だけでなく,光を強く散乱させる真珠核が疑似的に光源の役割を果たすため,真珠表面での反射光と真珠内部からの透過が我々の目に届く。このふたつの反射光と透過光の重ね合わせにより真珠の干渉色が決定されるという。
今回,真珠内部の多重散乱をKubelka-Munk理論で計算し,アラゴナイト結晶層の多重反射をTransfer Matrix法で計算することで,真珠内部の透過光,反射光,散乱光を再現することに成功した。
また,光学計算によって得られたそれぞれのスペクトルをコンピューターでビジュアル化するために,C言語の構文をベースとしたシェーディング言語OpenGL Shading Languageを用いたプログラムも独自に開発した。
実際に,アラゴナイト結晶層の厚さの異なる真珠の光学スペクトルを新しい光学モデルで計算し,コンピュータグラフィックスによりビジュアル化すると実際の真珠に近い外観を再現することができたという。
この手法は,アラゴナイト結晶層の分布の変化に伴う外観の変化を予測できるため,真珠の高品質化や,これまでにない新しい輝きをもつ真珠の開発に貢献することが期待されるという。特に,真珠の養殖には1年以上の年月が必要であるため,効率的な真珠の研究開発を行なうために,非常に重要な基盤技術になるとしている。