慶大ら,光遺伝学で脳内血流の操作に成功

慶應義塾大学,東北大学,東京大学,新潟大学,電気通信大学は,光照射によって脳内局所血流を自由に増加・減少できる操作技術を開発し,マウスに実装した。光操作の結果,脳血流が時間経過とともにどのように変化するか(タイムコース),かつどのような空間的な広がりを持つのかを具体的に示し,人為的に操作された脳内血流変動が神経活動やマウスの行動に反映される具体例を示した(ニュースリリース)。

神経活動の増加に伴って脳内の局所血流が増加することは広く知られている。また脳梗塞などの不可逆的な血流遮断が脳の機能を障害することもよく分かっている。

しかし,可逆的・局所的な血流変化が,神経活動を具体的にどのように変化させ,行動をどのように変化させるのか分かっていなかった。そこで研究グループは,オプトジェネティクスを血管に適用し,脳血流を光で操作する技術を開発した。

まず,血管細胞にチャネルロドプシン2(ChR2)または光活性型アデニル酸シクラーゼ(PAC)というタンパク質を発現させる2種類の遺伝子改変マウスを作成した。

光ファイバーを任意の脳領域に挿入し,光刺激することで,ChR2によって血流が減少し,PACによって血流が増加する。このマウスを用いて,①光刺激によって誘導された脳血流変化のタイムコース,②光刺激によって誘導された脳血流変化の空間的な広がり方を明らかにした。

そして,③この血流変動は可逆的であり,繰り返し誘導出来ること,④この血流操作技術を自由行動下(麻酔なし)のマウスに適用できることを示した。

その結果,麻酔なしで,自由に行動するマウスの脳血流を操作することが可能になった。特に,血流変化の時間経過が数十秒から分の単位で起こること,血流変化の空間的な広がりが光強度に依存することは,今後の血管オプトジェネティクス研究にとって有用な情報となるという。

研究グループは,この成果によってヒトの脳血流検査で報告されるさまざまな病態をモデル動物で模倣させることが可能になり,病態を理解することや,血流をターゲットにした治療法を開発することが期待されるとしている。

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