KDDI総合研究所は,光ファイバ中で生じる四光波混合現象を利用して,光ファイバに入力した光信号成分(SN比:光信号対雑音比)を,伝送後に9倍向上させる新たな伝送方式を発明し,その実証に成功した(ニュースリリース)。
Beyond 5G/6G時代には,現在よりもはるかに膨大なデータがネットワークを流れる。そのため,ネットワークを支える光ファイバ通信網は,データを収容する能力(伝送容量と伝送距離)を十分に拡大することが将来に渡って求められる。
これまでは,一つの光信号に,よりたくさんの情報を重畳することで光ファイバ通信網の能力を高めてきた。しかし,その方法では重畳した情報量分だけ光信号成分を拡大する必要があり,また十分に大きくできない場合は,伝送する距離を短くする必要があった。そのため光ファイバ伝送後において,光信号成分を飛躍的に拡大できる伝送方式の発明が求められていた。
同社は,非線形光学効果(四光波混合)を応用することにより,光ファイバに入力した光信号成分を,伝送後に9倍向上させる伝送方式を発明し,実際にBeyond 5G/6G時代に利用が想定される光信号を用いて約9倍の光信号成分の向上を確認した。
その原理は,信号光1(周波数f1)と,信号光1の複素共役である信号光2(周波数f2)を光ファイバに入れて伝送すると,f1の2倍からf2を引いた周波数と,f2の2倍からf1を引いた周波数に,信号光の成分(SN比)が9倍大きくなった光が出現するというもの。
実証の結果,光ファイバの波長分散がゼロとなる周波数を,ちょうどf1とf2の間になる条件に設定し,信号光としてラジオのFM信号のような角度変調を施すことにより,光信号成分が約9倍大きくなった光(相対的に,雑音が信号に対して1/9となった光)の出現を確認したという。
現在の伝送方式では,伝送後のSN比は決して大きくなることはなく,伝送前のSN比と同じか,信号劣化によりそれ以下となる。しかしこの方式は,伝送後にSN比を大きく改善することができ,従来の伝送方式と比べて約3倍伝送容量を大きくする(例えば,QPSK信号から64QAM信号へ)ことができる。
同社ではこの方式について,Beyond 5G/6Gネットワークを支える光ファイバ通信の伝送容量拡大に向けた基礎技術として今後の活用が期待されるものだとしている。