京都大学と名古屋工業大学は,イオン性ナノ結晶の陽イオン交換反応中に起こる結晶構造変化が,ナノ結晶の形状に依存することを発見した(ニュースリリース)。
陽イオンと陰イオンで構成されるイオン性ナノ結晶は,光電変換や発光素子などの光機能性材料として広く使われており,その特性は構成元素や結晶構造で決まる。しかし,サイズや形を精密に制御して化学合成できるものは少なく結晶構造も限られている。
陽イオン交換反応は,イオン性ナノ結晶中の陽イオンを別の陽イオンと交換する反応で,温和な条件で進行する。そのため,サイズや形を制御したイオン性ナノ結晶を陽イオン交換することで,ナノ結晶の種類を大きく拡充できる。
しかし結晶構造に関しては,小さくて動きやすい陽イオンとは対照的に,大きくて動きにくい陰イオンで形作られる骨格は頑丈なため,元の結晶構造はほとんど変化しない。そのため陽イオン交換反応の生成物の結晶構造は,母体の結晶構造で決まると考えられてきた。
研究グループは,イオン性ナノ結晶の陽イオン交換反応を研究する中で,ナノ結晶の形によって生成物の結晶構造が変化することに気づいた。具体的には,六方晶系Cu1.8Sナノ結晶のCu+イオンをCo2+で交換したとき,薄いプレート形状のCu1.8Sからは同じ六方晶系のCoSが生成する一方,細長いロッド形状のCu1.8Sは立方晶系のCo9S8に結晶構造が変化することを発見した。
結晶構造変化が起こる条件を詳しく調べるために,幅と高さが異なる1種類の六角柱型Cu1.8Sナノ結晶を合成し,それらの陽イオン交換反応を行なった。ナノ結晶の形と生成物の結晶構造を整理すると,Cu1.8Sナノ結晶の「高さ」が結晶構造を決める唯一の因子であり,高さが約10nmを境にして,それ以下のときは六方晶系(CoS)を維持し,それ以上のときは立方晶系(Co9S8)に結晶構造が変化するという関係性を見つけた。
その原因として,六角柱型六方晶系CoSの側面は底面よりも表面エネルギーが高く,側面を大きく露出することが熱力学的に極めて不安定なことが分かった。六角柱の高さが大きくなり側面の面積が増えると,なるべく露出を避けようとして,より安定な立方晶系Co9S8へ構造変化する力がはたらくことが示唆された。
Co2+以外の3種類の陽イオンではこのような形状依存の結晶構造変化は見られず,物質固有の相安定性がこの現象に重要な役割をもつことも分かった。
陽イオン交換反応で結晶構造を変化させる因子により,温和な条件でのイオン結晶の結晶構造制御が可能になる。この知見は,イオンの配列を制御する技術につながるとしている。